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次なる主戦場はサブスクリプション型ビデオストリーミングエコノミーに【第20回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年6月10日

デジタルボルテックスの中心に位置する業界が、メディアとエンターテイメントだ。そこでは今、サブスクリプション型ビデオストリーミングサービスを巡って激しい争いが勃発している。2019年からサービスを開始すると発表した「Apple TV+」や「Disney+」の参入が台風の目になる。どのデジタルプラットフォーマーが勝者になるのか、しばらく目が離せない状況が続きそうだ。

 第18回第19回で触れたように「Amazonエフェクト」に小売業界が翻弄されている。そうしたなか、米Amazon.comに果敢に挑んでいるのが、売上高が世界最大のスーパーマーケットチェーンのウォルマート(Walmart)だ(図1)。従来からの「エブリデー・ロープライス(EDLP)」によってカスタマーの来店動機を喚起する既存の実店舗を活用した販売戦略に加え、EC(電子商取引)を活用したオムニチャネル戦略によってAmazonエフェクトへ対抗している。

図1:Amazonエフェクト対抗するWalmart

社名から「Store」外した米Walmart

 同社は2018年2月、社名をWal-Mart StoresからWalmartに変更した。実店舗をイメージする「Stores」を社名から外すことで、EC事業の拡大をさらに目指すという覚悟を示した格好だ。実際、事業戦略の軸は、既存店舗を最大限に活用したECの拡大になっている(拠点戦略)。

 具体的には、カスタマーがインターネットで商品を注文し自宅まで配送してもらうのはもちろん、実店舗へ直接出向いて専用ロッカーから商品をピックアップできる「オンライン・グローサリーサービス」で攻勢をかける。全米で展開する約4700の店舗のうち、インターネットで商品を注文後に数時間程度でピックアップサービスが受けられる店舗が2100店舗以上ある。

 ECのカスタマーと、実店舗を訪れるカスタマーのプロファイルデータを紐付けることで、どのチャネルからWalmartのサービスを利用しても最高の体験を提供するのが目標だ。

 配達可能エリアの拡大とピックアップ拠点数の拡大に加え、さらなる事業拡大に向けて目をつけているのが自動運転の分野だ。2018年7月にWalmartは、第19回で紹介した自動運転車開発企業の米Waymoと提携した。Waymoの自動運転車に乗って最寄りのWalmart店舗へ向かい、事前にEC経由で購入した食料品などをピックアップするというサービスの展開を目指す。

 そして、デジタルエンターテイメントの分野でも攻勢をかける。2010年に買収したストリーミングサービス企業の米Vuduをベースに、新たなデジタル広告技術を開発する。オリジナルのビデオストリーミングサービスを通じて、映像中に登場する商品を購入できるサービスを2019年7月から開始する予定である。購買行動と連動するビデオストリーミングサービスによって、収益増加とVuduのユーザー数増加を狙っている。