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ブロックチェーンの業務適用に向けた実証実験の中身【第2回】

唐澤 光彦(NTTテクノクロス エンタープライズ事業部マネージャー)
2018年9月6日

不動産業界の動き

 仮想通貨以外の価値を取引できるように拡張されたスマートコントラクトの出現により、ブロックチェーンの実証実験は、金融業界から不動産業界などへと広がってきた。

 不動産業界では、不動産情報の記録や管理の簡易化が期待されている。契約に至るまでの必要書類が多いほか、仲介者が多数介在することによる不透明さがあるからだ。応用例としては以下が考えられている。

(1)不動産情報の記録・管理
 不動産情報の正確性・安全性は現状、法務局の管轄下での登記情報によって担保されている。しかしこれは、不動産の管理者である組織や企業、団体などが“信用できる管理者”であることを前提にしている。ブロックチェーンにより改ざん防止や過去取引の追跡が可能になれば、安全性と信頼性を客観的に高められる。書類の電子化により、管理コストの削減や登記手続きの効率化が図れる。

(2)不動産取引の電子化・自動化
 不動産の売買契約には、さまざまな関係者が登場する。売買当事者に始まり、媒介業者(売主側と買主側)、銀行などの金融機関、保険会社、司法書士、法務局などだ。これらの関係者が、それぞれに契約書などをやり取りしている。そうした取引を自動化し、ブロックチェーンで管理すれば、手続きの効率化と、改ざん防止、契約書の共有を図れる。

 実際には法整備が必要になるケースもある。現状では民間における情報共有からビジネスモデルの検討に入った段階である。

流通・製造業界

 ワインの偽造品混入防止、ジビエ肉や有機農産品の流通ルートにおける安全性の可視化といった実証実験が行われている。同様の観点では、偽造医薬品の防止や、食品や機密情報などの廃棄証明といった分野への適用が期待されている。

 ワインや、有機農産物、医薬品などの共通点は、製造/飼育/栽培から消費者の手に届くまでに、加工業者や流通業者など、さまざまな関係者が関わっていることだ。「食の安全性」はこれまで、性善説に基づき、単純に企業や公共機関の信用により成り立っていた。

 性善説が揺らいでいる今後は、原料や製造工程、流通ルートの保管状況といった管理対象の情報をブロックチェーンで管理することで、偽造品の混入や保管状態不備による品質劣化の有無を把握する必要がある。消費者は品質が可視化され安心して購入でき、製造者はブランド力の向上に役立てられる。

各種サービス分野

 宅配便の受け取りや民泊などといった新しいサービス分野でも、業種の境界を越えてブロックチェーンの実証実験が始まっている。サービス分野の特徴は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)との連携が試行されていることだ。鍵の管理や受け渡し、宅配ボックスの利用、民泊や自動車/自転車のシェアリングサービスなどである。

 たとえば宅配事業では、不在時の再配達が人手不足と重なり大きな問題になっている。その解決策の1つが宅配ボックスだ。受取人が指定した、駅やコンビニのロッカーを使って荷物を受け渡す。

 その際、重要になるのは、正規の受取人だけが指定したロッカーのカギを開け、荷物を取り出せることである。宅配業者が荷物を入れた記録や、カギの情報、受取人が取り出した記録などをブロックチェーンで管理すれば、改ざんもできず、確実に荷物をやり取りできる。加えて、伝票類も電子化できるため配送業務の効率化や利便性も高められる。

 IoTによるモニタリング業務では、人手が介在しないデータの書き込みが期待されている。ブロックチェーンに書き込まれる情報そのものへの不正を回避できる。IoTによるコントロールでも、どのような条件でコントロールしたのかをブロックチェーンで管理すれば、改ざんが行われていない根拠情報として活用できる。

 次回は、ブロックチェーンの適用業務をより具体的に考えるために、「貿易金融」に的を絞り、その業務内容とブロックチェーン適用の効果を掘り下げてみる。

唐澤 光彦(からさわ・みつひこ)

NTTテクノクロスエンタープライズ事業部 マネージャー。2016年からブロックチェーン関連の開発業務に就き、ブロックチェーン可視化パッケージ「ContractGate/Monitor」の企画・製品化・プロモーションを担当。ブロックチェーンの仕組みや事例を解説するセミナーなどにも登壇している。入社当時からセキュリティ関連部署に属し、プログラム開発やシステムエンジニア業務を経験の後、製品企画や製品化、プロモーション活動に従事してきた。これまでに、特権ID管理ソリューションの「iDoperation」、IT資産管理ソリューションの「iTAssetEye」の製品化・立ち上げに携わっている。