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ブロックチェーンのこれから【第6回】

唐澤 光彦(NTTテクノクロス エンタープライズ事業部マネージャー)
2019年1月10日

 この改善策としては、ブロックチェーンに投入する情報を取得するIoTシステムとの連携が検討され、そのための実証実験も始まっている。IoTにおける自動制御情報やAIが判断を下した根拠となる情報を、ブロックチェーンで管理すれば、その情報が改ざんされていないことを保証できる(図3)。

図3:IoTと連携したブロックチェーンによるデジタル情報基盤のイメージ

 つまり、現時点におけるブロックチェーンは“信用”を提供するための技術であり、複数のステークホルダーが存在する環境において、相互に牽制しながらも価値を健全に保存したり移転したりを可能にする基盤だということだ。将来的には、インターネットの上位サービスに位置づけられ、“信用”を厳密に提供できるサービスのための基盤になると期待する。

データの提供者と利用者の関係を健全に保つ

 近年は、残業時間の削減やワークライフバランスの実現策として、働き方改革や副業が話題だ。同時に、生産性向上やコスト削減が議論されている。筆者の私見だが、たとえば部品の製造・流通過程において、検査結果や測定結果をブロックチェーンで管理し販売先などと情報を共有すれば、相互の牽制が働き、品質管理や監査におけるコスト削減や、企業の健全性をアピールできるのではないだろうか。

 書類をスタッフ自らが運び列に並んだり、手書き文書やFAXで送られた情報をPCに再入力したりなど、アナログ情報をデジタル情報に変換するタイミングで、ブロックチェーンという基盤を使って情報を共有するようになれば、我々や社会は、さまざまな煩わしさから解放されると期待する(図4)。

図4:ブロックチェーンを基盤にした組織やサービス、地域連携の実現イメージ

 とはいえ、ブロックチェーンは決して“魔法の杖”ではない。耐改ざん性の確保や、透明性のある情報共有、それらによる利便性の向上や信頼性の確保が期待できるものの、過度な期待は禁物だ。特に運用においては、セキュリティを考慮しなければ非常に危険である。ブロックチェーンという仕組みだけでは解決できない、運用面からの情報漏えいや情報の改ざんといった問題が発生する恐れがあるからだ。

 ブロックチェーン自体は優れた技術だといえるし、インターネット同様にデジタル世界の基盤になると推測する。ただ、インターネットが社会基盤として認知されるまでに、商用化後ですら30年近くかかっていることを考えれば、技術の進歩速度が高まっているとはいえ、ブロックチェーンの歴史は、まだまだ浅い。

 加えて、日々の監視や機能拡張といった運用上の利便性や、セキュリティを含めた非機能要件においては、未知な部分が少なくない。時代は、ますます“サービス優先”に動いているとはいえ、サービス開始後の運用段階についても十分に検討しなければ、大きな事件に遭遇する可能性は否定できない。

 本連載は、ここで一旦、筆を置く。当初は「ブロックチェーンの現状について本当にお伝えできるのだろうか」といった不安もあったことは事実だが、ここまでの連載が、今後の情報管理基盤を考える際の一助になれば幸いだ。

唐澤 光彦(からさわ・みつひこ)

NTTテクノクロスエンタープライズ事業部 マネージャー。2016年からブロックチェーン関連の開発業務に就き、ブロックチェーン可視化パッケージ「ContractGate/Monitor」の企画・製品化・プロモーションを担当。ブロックチェーンの仕組みや事例を解説するセミナーなどにも登壇している。入社当時からセキュリティ関連部署に属し、プログラム開発やシステムエンジニア業務を経験の後、製品企画や製品化、プロモーション活動に従事してきた。これまでに、特権ID管理ソリューションの「iDoperation」、IT資産管理ソリューションの「iTAssetEye」の製品化・立ち上げに携わっている。