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Amazon Goが提供する新たな顧客体験、店舗を出るときのドキドキ感がたまらない【第2回】

工藤 卓哉(アクセンチュア)
2018年10月11日

米シアトルは歴史的にリテール(小売り)が強い都市としての性格を持っています。全米最古と言われる公設市場「Pike Place Market」のほか、日本でもお馴染みのスターバックスやコストコ、大手百貨店のノードストロームなどが本社を構えています。加えて、かつてはボーイングの本社があった関係から域内の物流網が発達しており、それを生かした事業拡大が図られています。ということで今回は、今話題のリテール形態である「Amazon Go」を取り上げたいと思います。

 Amazon Goは、米Amazon.comがシアトルに2018年1月にオープンさせた“リアル店舗”です。「レジに人がいない無人コンビニ」として紹介され、注目を集めています。すでにシアトルでは3店舗が営業しており、2018年9月中旬には新たにシカゴに4店舗目がオープンしたばかりです。

 これまで北米で「コンビニ」と言えば、ロードサイドのガソリンスタンドに併設された“おまけ的”な存在に留まっていました。それに対しAmazon Goは、まさに観光地になるほどの人気ぶりです。今後はAmazonの実店舗としての展開が加速していくものと考えられます。

 3店舗のうちの1つが、アクセンチュアのオフィスから徒歩7分程度のところにあります(写真1)。実はお昼にふらっと立ち寄ることも多く、個人的にも気兼ねなく入れる店として活用しています。

写真1:アクセンチュアのオフィスからも近い「Amazon Go」の店舗

 まず入店するには、専用のモバイルアプリケーション(こちらからダウンロード可能です)と、それに紐づけるためのAmazonのアカウントが必要になります。2018年9月半ばに私が訪れた時には、有料会員サービスの「Amazon Prime」向けの割引などは提供されてはいませんでした。Amazonが2017年に買収した高級スーパー「Whole Foods」ではPrime会員向けの割引が実施されています。

 有料会員が手厚い特典を享受できる仕組みは、商圏が広がれば広がるほど、その“正の外部性”が享受できるため破壊力がある戦略と言えるでしょう。日本でも、携帯電話のようなサブスクリプション型ビジネスでは、月額基本使用料をテコに商圏拡大を目指す動きが進んでいます。

 たとえばKDDIは、グループが提供するさまざまなサービスに使えるポイントの連携を進め、グループのEコマースサイトや投資信託会社の利用に応じてポイントを還元し、それをさらにau商圏内で消費できる仕組みを構築しています。サブスクリプションを得ることで得られる便益の出口を広げることで、顧客に対し、より魅力のあるサービスを提供するという戦略を採る企業が増えてきています。

QRコードが無人決済のためのユニークID

 さてAmazon Goです。モバイルアプリをダウンロードし、必要なデータを入力したら、早速店舗に行ってみましょう。店舗の入口には駅の改札ゲートのようなQRコードの読み取りマシンがあります(写真2)。ここで来店した各個人が識別され追跡が開始されます。追跡に使っている1つのコア技術が、ディープラーニングやコンピュータービジョンだと言われていますが、公式サイトにも概念的な説明しかありません。

写真2:「Amazon Go」の店頭にあるゲート