• Column
  • デジタルシフトに取り組むためのソフトウェア開発の新常識

「無駄なものを作らない」がアジャイル開発の目的【第3回】

梶原 稔尚(スタイルズ代表取締役)
2018年11月28日

 スプリントの最終日には、プロダクトオーナーが成果物を確認する場「スプリントレビュー」を開催します。そこでは必ず、実際に動くアプリケーションを使って成果を確認します。

 最終日にはスプリントの振り返りを実施します。そのスプリントで良かった点や改善すべき点、その要因と改善策などを各メンバーで議論し合い、次回のスプリントに活かすようにします。

ソフトウェア開発のリスクを小さいうちに潰していく

 ここで、もう一度、アジャイル、そしてScrumが何のためにあるのかに立ち返ってみましょう。それは「無駄なものを作らない」ということです。

 ソフトウェア開発には、さまざまなリスクがあります。正しく動かないシステムを作ってしまう“品質のリスク”、いつまでたっても稼働できない“スケジュールのリスク”などです。しかし、なによりも決定的な失敗を招くのは無駄なものを作ってしまうリスクなのです。正しく動いたとしても、それを誰も使ってくれなければ、そのために投入したコストはすべて無駄になってしまうからです。

 有名な統計として「典型的なシステムでは、45%の機能は全く使われていない、さらに19%もめったに使わない」があります(『Chaos Report、Standish Group、2000』)。つまり、開発コストのおよそ50%は無駄な機能のために使われているということです。そのリスクを避けるために、Scrumでは、可能な限り優先度が高いものから順に開発していくのです(図3)。

図3:製品の有効性に関するリスク

 優先度の決定において、最も大きな役割を占めるのが、前述のプロダクトオーナーです。日本の企業では、優先度などの判断が、個人ではなく組織的に依存する比率が高いだけに、プロダクトオーナーには、その判断を促進するファシリテータとして、(1)会社組織の意思決定プロセスの促進、(2)社内の現場部門との調整、といった役割が強く求められます(図4)。

図4:プロダクトオーナーの役割

 次回は、デジタル化を推進するアジャイル開発に向けた、プロダクトオーナーを含めた組織の作り方と、IT業界における日本的商慣習のなかで、ITベンダーとどんなパートナーシップを作っていくべきかについて、お話しします。

梶原 稔尚(かじわら・としひさ)

スタイルズ代表取締役。慶応義塾大学卒業後、舞台俳優を志しながら、アルバイトでプログラマーになるも、プログラムのほうが好きになり、30代前半でIT企業を設立。以来、自らエンジニアとして数多くの業務系システムの案件をこなしながら、社長業を兼任する。

「最新技術やOSS(オープンソースソフトウェア)を積極的に活用することで、IT業界の無駄をなくし、効率の良いシステム開発・運用を行う」をモットーに、日々ITソリューションの企画・開発に取り組んでいる。趣味は散歩と水泳。