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アジャイル開発に向けたITベンダーの選び方【第5回】

梶原 稔尚(スタイルズ代表取締役)
2019年1月30日

前回、ウォーターフォールモデルでは、発注者(事業会社)と受注者(ITベンダー)が本質的に利益相反の関係にならざるを得ないことと、アジャイル開発モデルでこそ、ビジネスチームと開発チームが一体感を得られると説明しました。今回は、デジタルシフトのためのプロジェクトを成功に導くために、ITベンダーをどう選べば良いかを考えてみます。

 システム構築プロジェクトにおいて、ITベンダーを選定するステップは一般に、次のようなものです(図1)。

ステップ1:要求事項をRFP(提案依頼書)にまとめ候補のITベンダーに配布
ステップ2:候補のITベンダーが価格やスケジュールを含めた提案書を提示
ステップ3:提案書を元に事業会社がITベンダーを選定

図1:一般的なITベンダーの選定プロセス

 このようなITベンダーの選定プロセスは、事業会社における調達の客観性や透明性を確保するためには欠くことができないものでした。RFPには、ウォーターフォールモデルを前提とした要求仕様(機能的な要件と非機能的な要件)を記載し、それを実現するシステムをできる限り安価に作り上げる、あるいは提案させるために、コンペによってITベンダー間の競争をうながします。

“お抱え”のITベンダーは真のパートナーたり得るか

 ITベンダーサイドは、受注を目指して魅力的な提案書を作成しようとします。ですが、選定ポイントとして価格が大きな比率を占めるために、さまざまな工夫を凝らして原価を切り詰めようとします。

 めでたく受注できたとしても、そもそも余裕のない予算なわけですから、プロジェクトが始動してから以降の変更要望には、追加費用を要求するか変更自体を拒否することで応じることになります。結果、発注者との間で相互不信を招き、ひいてはプロジェクト自体が予想外の失敗に終わるということが多いのです。

 筆者の経験からすれば、このような発注プロセスである限り、事業会社がITベンダーと良好なパートナーシップを構築することは大変に難しいでしょう。

 とはいえ、事業会社の多くは、いわゆる“お抱え”のシステムインテグレーターと取引しています。それが1社か数社に分割しているかは別にして、自社システムの初期構築を任せて以後、追加の開発や保守業務を依頼し続けているITベンダーです。

 かつて、ある大手システムインテグレーターの幹部から、「(ITベンダーにとって)初期開発は、ほとんどが赤字になる。そこは諦めざるを得ないが、その後の追加開発や保守で利益が出せる」とお聞きしたことがあります。この話は業界の実情を正しく反映しています。

 初期の開発では受注したいがために複数のITベンダーが競い合い、ウォーターフォールモデルによる手戻りも発生し、多くのプロジェクトが赤字になってしまう。ITベンダーのプロジェクトマネジャーにすれば、いかに赤字幅を小さくするかが腕の見せ所はなります。そうして一社独占状態になれば、高めの費用を提示し続けることで利益を出していくというわけです。

 追加開発や保守で利益が得られる期間をできるだけ長くするためには、他のITベンダーに発注しづらい状態、つまり“ロックイン状態”を、できるだけ長く維持する必要があります。