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- これだけは知っておきたいデジタルマーケティングの基本
リアルワールドでのサービス提供の鍵を握る“位置”と“決済”【第6回】
店舗での決済情報からオフライン行動をとらえる
2019年10月1日に消費税率が10%に改訂された。これに伴う消費者還元策として話題になっているのがキャッシュレス決済である。ソフトバンクグループの「PayPay」、LINEが展開する「LINE Pay」、楽天の「楽天ペイ」などなど、多くはオンライン事業者がリアル店舗での決済事業に一気に進出した。
オンライン事業者がキャッシュレス決済に参入する意図は、実店舗での決済情報の取得と、クーポンの提供などによる店舗での購買促進に向けたデジタルマーケティング(販促施策)の展開である。
たとえば「100億円あげちゃう」キャンペーンで話題になったPayPayは、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資するインド最大の決済サービス事業者Paytmと連携することで、バーコードやQRコードをベースにした決済テクノロジーの提供を受けてサービスを展開している。
ここでも大事なポイントはPayPayと「ヤフーID」の連携だ。PayPayのデータを使ってのヤフー広告におけるデジタルマーケティングの展開を目論んでいることが分かる。オンラインとオフラインの購買行動をつなぐ鍵はヤフーとPayPayのIDである。
実際、ヤフーは2019年11月1日、実店舗への購買誘導を目的とした新サービス「Yahoo! セールスプロモーション」を発表。PayPayと連動した広告・販促商品を提供していく予定で、第1弾として「PayPayコンシューマーギフト」を開始した。
PayPayコンシューマーギフトでは、まずヤフー広告でキャンペーンを告知して商品購入を促す。ユーザーは対象商品を購入し商品に貼付されるQRコードなどを読み込み、キャンペーンサイトから応募すると、抽選でボーナスを受け取れる(図2)。
2020年1月には、第2弾として「PayPayリテールギフト」を開始する予定である。ヤフー広告でキャンペーンを告知し、ユーザーにキャンペーン対象店舗での商品購入を訴求する。ユーザーはキャンペーンサイトで応募し抽選に当たれば、キャンペーン対象店舗を訪れ代金をPayPayで決済すると、ボーナスを受け取れるようだ。
いずれのサービスも、ユーザーの購買プロセスをオンラインからオフラインにつなげ、実際の購買行動などのビジネス効果を可視化できる予定である。来店計測同様に、インターネット広告がリアルの店舗での購買行動へ与える影響を可視化していくことになる。
こうしたYahoo! & PayPayの動きは、先行ケースの1つに過ぎない。キャッシュレス決済へ乗り出した他のオンライン事業者も、形の違いはあっても、決済情報を用いたデジタルマーケティングの展開を追随していくことが予想される。
継続的な利便性の高いサービス提供と個人情報の尊重が不可欠
このように、オンライン事業者のリアルワールドへの進出は、位置情報や決済情報の把握やマーケティングへの活用といった狙いがある。一方で各事業者が最も注意を払っているのが個人情報の扱いだ。
欧州でGDPR(一般データ保護規則)といった規制が始まったように、位置情報や決済情報といった、よりリアルな行動に近い情報は、Cookie以上にセンシティブな情報であるといえる。当然ながら、GoogleやYahoo!は、こうした情報を広告主へ個人を特定できるような形では共有できない。個人を特定できない形でのサービス提供になっている。
そうした背景もあり、位置情報や決済情報を活用するエコシステムの肝は、ユーザーの利便性向上に尽きる。位置情報や決済情報をオンライン事業者へ提供することで、より利便性の高いサービスを受けられなければ、そうした情報を個人は提供しなくなるだろうからだ。
オンライン事業者が、ユーザーへ利便性の高いサービスを提供し続け、かつ個人情報の尊重を継続し続けられるかどうかが、これからのデジタルマーケティングを左右するだろう。
信濃 伸明(しなの・のぶあき)
ADKマーケティング・ソリューションズ 事業役員アドテクセンター長。UBS証券会社、ローランド・ベルガーを経て2012年Google入社。広告営業本部にて小売・流通業界営業部を統括。Googleショッピング広告プロジェクト責任者を経て、「Google来店コンバージョン」を中心とするO2Oプロジェクト責任者。2018年ADK入社、2019年1月より現職。プラットフォームビジネスおよびアドプロダクト領域を統括している。