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リアルワールドでのサービス提供の鍵を握る“位置”と“決済”【第6回】

信濃 伸明(ADKマーケティング・ソリューションズ 事業役員アドテクセンター長)
2019年12月5日

Yahoo!によるLINEの統合など日本のオンライン事業者が規模の拡大を図っている。世界規模で急成長する「GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)」など巨大プラットフォーム企業を追い掛けるためだ。そんなオンライン事業者が注力する大きな潮流の1つが位置情報の獲得とキャッシュレス決済サービスの提供だ。“リアルワールド(実世界)”に向けたサービスの強化を狙っている。

 最近、テレビCMなどで「OK, Google。近くの焼肉」といった店舗検索の使い方を目にした方も多いのではないだろうか。消費者が外出先で、飲食店や小売店を探す方法として利用が広がっている。

消費者がほしいのは「近く」の実店舗の情報

 この検索で重要なことは、消費者は「近く」としか発しておらず、今いる場所を住所などで明示的に示していないことだ。これは、スマートフォンから得られる位置情報を自動的に加味することで、最適な検索結果を提供することで実現されている。

 実は、検索行動として近年急増しているのが、位置情報と店舗や商品/サービス名などを組み合わせた「ローカル検索」である。過去3年間で3倍に増えている。地域名や「近くの○○」といった場所の情報を含めた検索語句は「ローカルインテントクエリー」とも呼ぶ。

 リアルな店舗にとって位置情報は非常に重要だ。たとえば北海道などの旅先で「焼き肉店」を検索した利用者に、九州の有名店が検索上位に表示されても自店への来店をうながせない。消費者に必要な情報の多くは“ローカルな”情報である。

 利用者が住所などを含めて検索してくれれば良いが、それが「近くの」といった形で検索できれば、大きな“利便性”を提供できる。同時に、リアルな世界での消費者の行動情報を取得できる。ローカル検索などのサービスを提供することで、スマートフォンの位置情報設定を「ON」にしてもらうことで位置情報を取得し、それを他のデジタルマーケティングにも活用する。

GPSなどにWi-Fiを組み合わせ精度を向上

 ではオンライン事業者は、どのように位置情報を取得しているのだろうか。一般に位置情報と言って思い浮かぶのは「GPS(全地球測位システム)」か「ビーコン」といったテクノロジーだろう。

 ただ一般的なGPSによる位置情報では平面の位置情報しか取得できず、建物の2階にいるのか3階にいるのかなどが分からない。ビーコンによる位置情報も、ビーコンの近くへい行ったかどうかという“点”の情報でしかない。

 こうした点を補うために最近活用が広がっているのが「Wi-Fi」である。たとえば、ソフトバンクグループで位置情報マーケティングを手がけるシナラシスムズは、全国の飲食店や駅、コンビニなどに設置されている「ソフトバンクWi-Fiスポット」から出ているシグナルを基に位置情報を取得している。店舗などにソフトバンクWi-Fiスポットを安価に設置できるのはグループシナジーによるものだ。

 米Googleは、GPS情報を基軸にWi-Fiデータを同時に用いることで複合的な位置情報を生成している。GoogleはWi-Fiデータを組み合わせることで、縦方向の位置情報を補足している。具体的には、三角測量の要領で、Wi-Fiのシグナルの入射角を用いることで、どのフロアにいるのかを把握する。これにより「ららぽーと豊洲の3階にあるキッザニアにいる」というところまで把握できる。

 ここで大事になるのが「Google ID」の存在だ。Android端末なら端末利用開始時にGoogle IDを入力する。これにより「Googleフォト」や「マップ」、ブラウザの「Chrome」や動画配信の「YouTube」などを利用している際に、位置情報とオンライン行動をGoogle IDがつないでいる。目的地のみならず、日々の行動データも取得できることになる(図1)。

図1:Googleマップ上での行動履歴情報の例

 デジタルマーケティングにおける位置情報の活用方法は2つある。1つは店舗への来店の計測だ。広告をクリックしたユーザーが、その広告主の店舗を実際に訪れたかどうかを測る。「来店コンバージョン」と呼ぶ。オンラインでは当たり前のコンバージョン計測を実店舗でも計測することで、広告効果を可視化する。

 もう1つがターゲティングである。「居酒屋によく行くユーザー」などの絞り込みにおいて、広告の入札機能にも、位置情報を加味した入札調整が可能になっている。