• Column
  • ドローンの業務活用を考えるための基礎知識

産業用ドローンの進化の鍵は自律性とエッジコンピューティング【第6回】

吉井 太郎(センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト)
2020年6月30日

エッジによる分散処理が大量データの扱いを可能に

 ドローンの自律性を実現するには、強力なコンピューティングパワーが必要です。さまざまなセンサーからのデータをリアルタイムで処理し、データに基づいて瞬時に制御できなければならないためです。

 ドローンは高速で空を飛行するロボットです。機体の姿勢を制御など、飛行に必要な基本的処理は「フライトコントローラー」と呼ばれるコンピューターが担っており、飛行用モーターの出力コントロールなどを実施しています。

 センサーデータのリアルタイム処理などは、「コンパニオンコンピューター」と呼ぶ、フライトコントローラーとは別のコンピューターが担当します。コンパニオンコンピューターの役割を、クラウドだけに頼ることはできません。5Gなどで大容量かつ低レイテンシ(遅延)の通信が実現したとしても、やはり大半の演算処理はローカルで実行する必要が出てくるでしょう。

 だからといって、必要なだけのコンパニオンコンピューターをドローンに搭載するわけにもいきません。そこで重要になってくるのが、エッジコンピューティングの考え方です。エッジコンピューティングとは、データ処理がクラウドに集中することの弊害を避けるために、デバイスまたはデバイスの近くで処理を分担する概念です(図1)。

図1:エッジコンピューティングによる分散処理の概念

 ドローンが取得できるデータは先述したとおり、ますます多様になりデータ量も増えていきます。ただ生データは、そのままでは活用しにくいことがほとんどです。高解像度カメラの撮影する映像は非常に大容量でハンドリングが困難ですし、多くのセンサーは人間には理解しにくい数値データを大量に吐き出すからです。

 ドローンに搭載するコンパニオンコンピューターも、データをローカル処理による分散化を図っていますが、エッジコンピューティングを採り入れた環境でのコンパニオンコンピューターは、リアルタイムに必要なデータの一次的な解析を実行し、結果のサマリーデータのみクラウドに通信するといった、さらなる役割分担を可能にしていくでしょう。

 ドローンのエッジコンピューティングは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の文脈でも期待が集まっています。

 IoTの産業活用では、センサーや計器類をネットワークに接続しデータを収集しますが、数千・数万の計器をネットワーク化するには莫大な費用がかかります。デバイス自体を直接ネットワークに接続するのではなく、付近を巡回飛行するドローンがデータを集めるようにすれば、電源・通信ケーブルの敷設が不要になり、大規模な工場などのIoT化をうながせます。

 このように、自律性の向上とエッジコンピューティングの活用は、ドローンを単なるデータ収集デバイスという位置付けから、より私たち人間と共存する“ロボット”的な存在へと進化していくことでしょう。

 次回は、そうした進化によって起こるドローンの未来を考えてみたいと思います。

吉井 太郎(よしい・たろう)

センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト。ソニー、ソニーコミュニケーションネットワーク、IMJモバイルを経て、2008年より日本マイクロソフトにてゲーム機「Xbox」のマーケティングを担当。2015年よりグリーのヘルスケア領域における新規事業のサービス企画マネージャーを担当した。2016年5月より現職。