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ドローンの業務実装に向けた3つのステップ【第5回】

吉井 太郎(センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト)
2020年5月22日

前回まで、ドローンの有用性や活用対象について、お伝えしてきました。今回は導入に向けて考えるべきこと、やるべきことをお話しします。ドローンは優れたツールですが、あくまでツールです。ドローンを使いこなし業務革新を実現するためには、しっかりとした準備が必要です。

 ドローンを業務に実装していくにあたっては大きく、(1)実現性調査、(2)ソリューション開発、(3)導入・運用の準備の3つのステップを踏んでいく必要があります。以下では、この3ステップそれぞれを詳しく解説します。

ステップ1:実現性調査

 読んで字のごとく「本当にその業務にドローンが活用できるのか?」を、さまざまな視点から調査するステップです。第3回の『点検に見るドローン活用が業務に与える“3S改革”』でも触れましたが、今回は技術的な実現性とビジネス的な実現性の調査について深く掘り下げて説明します。

技術的な実現性の調査

 技術的な実現性は真っ先に確認しなければなりません。安全性や、関連法規との適合、適切な機材の選択など、テクニカルな実現性を広く検証する重要な調査です。

 なかでも最も重要なのが、該当業務をドローンで代替できるのかどうかの検証です。従来は人が担当していた業務をドローンで代替し、さらには効率化・省力化が図れるのかどうかを、現場での実証実験などを通して検証していきます。

 この際注意すべきなのは、「既存業務のすべてをドローンで代替する必要はない」という点です。もちろん、すべてが代替できればベストですし、実際に、すべてを代替できる業務も存在します。ですが人間は“五感”という優れたセンサーを備えた汎用性の高いツールだけに、そのすべてをドローンが実行するのは、なかなか難しいというのも事実です。

 業務を作業単位に分解し、ドローンに代替することで、作業負荷の軽減やコスト削減、安全性の向上など、高い効果が期待できる作業を抽出します。これらの効果に対し、たとえば以下のような目標を設定し実証実験を実施します。

・現場作業の大部分を占める目視点検を代替し現場人員を〇人削減する
・足場設営の必要な高所作業を代替しコストを○○%圧縮する
・危険区域での作業を代替し労務災害発生をゼロにする

 技術的実現性の調査では、こうした具体的なゴールを決め、業務実装時に目標を達成できるかどうかを検証する必要があります。

ビジネス的な実現性の調査

 一言で言うと「事業においてドローンを活用する価値」を判定するための調査です。技術的な実現性の調査と並んで非常に重要です。技術的な実現性の調査で、ある業務をドローンで代替できることがわかったとして、それを「やる価値があるか」を決めるための材料を揃えるための検証を実施します。

 この調査でまず実施すべきは、ドローンで実行する業務だけでなく、その前後を含めた業務フローを洗い直すことです。技術的な実現性で確認したドローンで代替できる業務を、もう少し大きな枠でとらえ、その枠中でドローンが果たす役割と、その効果を検証します。

 たとえば、ドローンで設備を点検する業務を考えましょう。点検作業は「設備保全」という枠でとらえると、ほんの一部でしかありません。一般に設備保全業務は図1のようなサイクルで進みます。①〜⑦が済めば、そのサイクルの点検・補修実績に基き①を実施することで次のサイクルが始まります。

図1:設備保全業務のサイクルの例

 ここで、ドローンが代替するのは主に②の点検作業の実施です。ですが、ビジネス的な実現性の調査では、②の作業をドローンで実施した場合に、設備保全業務のサイクル全体に与える影響を検証する必要があります。

 技術的な実現性調査の段階では、作業の安全性の確保と作業時間の短縮という目標は達成できたものの、コストがかかり過ぎるという結果が出たとします。その場合でも、点検の結果がデジタルデータといて得られるため、③~⑤のプロセスで工数を大幅に削減できるケースも多く見られます。

 逆に、技術的には良い結果が得られた業務も、フロー全体から見ると効率が悪くなってしまうケースもあります。その場合は、人による作業とアナログな成果物に最適化されている現状の業務フローを、デジタルに合わせて刷新する機会ととらえるか、コスト等のインパクトを考えると時期尚早とするかを判断しなければなりません。

 このような意思決定をするためにも、ビジネス的な実現性の調査は、より高く、より広い視点で実施する必要があります。