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産業用ドローンの進化の鍵は自律性とエッジコンピューティング【第6回】

吉井 太郎(センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト)
2020年6月30日

これまで、ドローンを業務に活用する際に必要になる知識とノウハウをお伝えしてきました。その中で、さまざまな活用事例も紹介しました。ドローンは日々進歩していますが、ドローン産業はまだ生まれたばかりです。まだまだ大きな可能性を秘めています。今回は、ドローンの進化を支えるテクノロジーについてお話します。

 ドローンの業務活用は「2015年がドローン元年」と言われています。航空法が改正されたのも2015年の9月です。そこから5年の間に、ドローンは大きく進化しました。特に、ドローンのハードウェアは驚くほどの進化を遂げています。

 具体的には、飛行制御の安定性が増し、多くのセンサーで機体や周囲の状況を把握することで、誰もが飛ばせるようになりました。カメラの搭載も当たり前になり、テレビや映画で使用できるほどの映像が撮影できる機体も珍しくありません。他にも、耐風性や防水性、飛行可能時間など、いわば“正統な進化”が常に進行しています。

 今後も、ハードウェアの面では新機種が登場するたびに高性能化が進むでしょう。しかし、産業分野における業務活用に向けては、上記のハードウェアのスペック向上とは少し違った観点から進化の方向性を見ていく必要があります。これまで説明してきたように、ドローンを使った仕組みは、複数のテクノロジー領域の組み合わせで成立しているからです。

 その意味で、今後のドローンの業務活用に向けた進化のキーワードは、自律性とエッジコンピューティングです。

高い自律性がドローンの適用領域を拡大

 ドローンの産業活用において、現場で求められるのは、ともかく業務の効率化です。

 効率化には、第3回でお伝えした「3S(Scale:規模、Speed:速度、Safety:安全性)」の向上からデジタルトランスフォーメーション(DX)への貢献まで、非常に広い意味を含みますが、最も手っ取り早い効率化は「なるべく人の手がかからないシステムを構築すること」であり、そこで重要になるのが自律性の向上です。

 自律性とは、ドローン自身が判断し行動できるかどうかです。そのためには、周囲の状況を把握するセンサー、センサーからの情報をリアルタイムに処理する頭脳、それらを統合する高度に自動化されたシステムが不可欠です。この自律性がもたらすのが作業限界の向上と完全無人化です。

 自律性が高いドローンは、細かな作業指示が不要になります。たとえば通信鉄塔を点検する際は、地図上の鉄塔を指定するだけで撮影に最適なルートを計画し、必要なポイントで撮影ができます。想定外の障害物が存在していれば、自律的に回避し、撮り漏らした部分を撮影するためのルートをその場で改めて計画できます。

 従来の自動航行ドローンの場合は、飛行ルートの座標や撮影ポイントをひとつずつ設定する必要があります。対象にぶつからずに飛行できるのはもちろん、くまなく撮影できるようカメラの画角やシャッター間隔なども考慮しなければなりません。

 こうした自律性は、単に作業指示を楽にするだけではありません。飛行計画、作業実施、衝突回避とそのリカバリーが自律的に行えることは、ドローンの作業限界を劇的に押し上げます。より対象に接近した高精度の点検や、人間の目が届かない遠方や複雑な環境への対応、疲れを知らないロボットとしての長時間作業など、さまざまな領域への活用が可能になるでしょう。

 たとえば、物流ドローンなど、業務の大半を人の目の届かない遠方で実施する利用形態では、こうした高度な自律性が不可欠です(写真1)。

写真1:ANAなども参入する物流ドローンでは、高度な自律性が前提になる

 自律的なドローンが最終的にもたらすのは、業務の完全自動化・無人化です。自ら周囲の状況を把握し、適切な業務遂行を判断できるドローンは、もはや人の指示や監視を必要とせず、圧倒的な効率性をもたらすツールになるはずです。