• Column
  • ドローンの業務活用を考えるための基礎知識

ドローンの未来はSociety 5.0を目指す【第7回】

吉井 太郎(センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト)
2020年7月14日

ドローンの業務活用を考えるに当たり、前回はこれからのドローンの実現に不可欠なテクノロジーについてお話しました。今回は、本連載のひとまずのまとめとして、ドローンの未来を考えてみましょう。

 現在、ドローンの活用領域は非常に多岐に渡っています。しかし、前回に説明したように、ドローンを支えるハードウェアやソフトウェアの技術は日進月歩で進んでいます。この流れを前提に、その活動領域はさらに広がるはずです。

 ドローン活用の“未来”を考えるとき、筆者は(1)フライングセンサー、(2)フライングロボット、(3)エアモビリティの3つの分野に大きな可能性があると注目しています。

ドローンの未来1:フライングセンサー

 本連載でも繰り返し述べてきた通り、ドローンが最も得意とする業務は、カメラを含むセンサーを搭載してデータを収集する“センシング”に関わる業務です。「フライングセンサー(空飛ぶセンサー)」としてのドローンは、ペイロード(搭載機器)の進化(小型・軽量化、低価格化、高性能化など)により、本格的な普及期を迎えようとしています。

 ペイロードとしてのセンサーは、通常の可視光カメラに加え、熱を計測するサーモグラフィカメラ、レーザーを使って3次元形状をとらえる3D LiDARなどが代表的です。これらは数年前とは比較にならないほど高性能に、そして小型・
軽量に、かつ低コストになっています(写真1)。

写真1:最新の産業用ドローン「M300」(中国DJI製)のペイロード「H20T」は、ズームカメラとサーマルカメラ、レーザー測距器を搭載し、小型・軽量・低価格を実現している(出所:DJI JAPAN)

 たとえば3D LiDARは、最近まで価格は数千万円、大きさや重量も大型のドローンでなければ搭載が難しいものでした。それが今では、数百万円で小型~中型機にも適応するサイズになり、性能もひけを取らない製品が登場しています。

 ここに、ドローンの関連業務を自動化するソフトウェアを組み合わせれば、施設保全や操業状態の監視、業務の進捗管理などに必要なデータを、効率よく取得できるようになります。企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するに当たり、なくてはならないツールになるでしょう。

ドローンの未来2:フライングロボット

 広義には自律航行可能なドローンはすべて「ロボット」だと言えます。ですが、ここでは先述の「フライングセンサー」に対して、「作業する機械」という意味でロボットという言葉を使いたいと思います。

 「フライングロボット(空飛ぶロボット)」としてのドローンは、これまで苦手領域として説明してきた、物理的なコンタクトを伴う作業を担うことになります。
もっとも実現が早いのは、すでに農業ドローンとして活用が進む液剤・粒剤の散布を応用した領域でしょう。

 農業用ドローンは、従来のラジコンヘリに比べ、精密な飛行を制御できるという特性を活かし、農薬散布や施肥をピンポイントで行う精密農法への活用が進んでいます。これを応用すれば、塗料や防錆剤の塗布、充填剤によるヒビ補修など、各種施設の保全業務への活用が期待できます(写真2)。

写真2:芝浦工大と西武建設による構造物への補修剤の吹付実験(出所:芝浦工業大学)

 コロナ禍に代表される感染症と共存する時代においては、大規模な殺菌消毒作業にも活用されるでしょう。

 ドローンの作業限界の向上は、点検検査の領域にも革新をもたらします。ドローンが得意とする業務として、カメラなどの光学機器を中心にした非接触検査を紹介してきました。しかし実は、多くの非破壊検査は対象との接触を必要とします。

 具体的には、内部の空洞やクラックの検知に必要な打音検査、超音波や磁力を使用する配管の肉厚検査、重大な事故をもたらすCUI(Corrosion Under Insulation:保温材下腐食)の防止に役立つ中性子水分計など、多岐に渡ります。

 これらの検査に必要なペイロードを機動力が高いドローンに搭載し、検査業務を自律的に実施できるようになれば、プラントやインフラの健全化・長寿命化にドローンは大きく貢献するでしょう。フライングセンサーとしてのドローンと組み合わせれば、施設の保全に全く人手がかからなくなる可能性があります。

 ドローンを含めた各種のロボットが施設の健全性を保ち、人間は検査・補修報告を受け取るだけという未来が、近い将来に訪れるかもしれません。