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  • 欧州発の都市OS「FIWARE」の姿

欧州の先進事例にみる都市の課題とFIWAREの役割【第4回】

スペイン・サンタンデール市とポルトガル・リスボン市

友水 明澄(NEC クロスインダストリー企画本部)
2020年6月17日

欧州先進事例2:ポルトガル・リスボン市

 リスボン市は、ポルトガルの首都です。都市圏の人口は300万人以上で、欧州連合(EU)内で11番目に大きな都市圏を形成しています。歴史的な遺産を持ち、国際的な観光都市として有名な同市が目指すのは、都市の安全性向上やモビリティ、市民のQoL(Quality of Life:生活の質)などを、より高いレベルで実現することです。

 そのため同市は、都市全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進。自治体の活動を統合的に管理するためのプラットフォームとなる「COI(Integrated Operation Center)」を構築しました(図2)。

図2:ポルトガル・リスボン市の統合プラットフォーム「COI(Integrated Operation Center)」の画面例

 COIは、市が運用する10種のシステムだけでなく、空港や鉄道、交通局、環境関係、エネルギー、警察など30以上の外部システムとのデータ連携を実現しています。システムによってフォーマットが異なるデータへの一元的なアクセスを可能にすることで、主要なデータ指標や傾向を表示し、自治体の活動を統合的に管理しています。

 具体的なプロジェクトの1つがeモビリティです。リスボン市では、公共の電動自転車のシェアリングスキームを利用し、車や他の移動手段から、自転車や電動アシスト自転車への転換を促進しています。

 利用者に貸し出されるすべての電動自転車にはセンサーが設置され、モバイルアプリケーションと連動します。市のモビリティ管理者は、各パーキングステーションに何台の自転車があり、何台の自転車が使われているかをリアルタイムに把握できます。

 これによりモビリティの動向を把握し、公共サービスへ反映させることで、交通渋滞を緩和するとともに、環境問題の改善や健康・福祉サービスの向上にも貢献しています。

 公共安全の向上にも取り組んでいます。市内に設置したカメラの映像を分析し異常行動を検知しています。有事の際には、COIを通じて関連機関にリアルタイムにデータが提供され、迅速な対応を実現します。

 外部機関とのデータ連携は、警察や消防など救急サービス従事者との情報共有を円滑化するだけでなく、事件の種類ごとにワークフローを自動化することも可能にしています。関連機関は事件の発生時、自らが積極的に対処できるようになります。市管理者は、適切な対応がなされているかの対応状況を確認できます。

スマートシティ導入の複数モデルに対応できるFIWARE

 このように、サンタンデール市はプラットフォームに蓄積したデータを活用し、さまざまな都市へのソリューションを展開しています。一方のリスボン市は、プラットフォームを介して既存システムと都市の新たなデータを統合し、市政サービス全体の俯瞰を実現しています。

 サンタンデール市のCCOCと、リスボン市のCOIのいずれもがFIWAREを使って構築されたプラットフォームです。両市のようにスマートシティに向けたプラットフォームの導入モデルが異なる場合でもFIWAREは、スマートシティサービスの実現に必要なデータやサービスの横展開、既存システムとの連携などに柔軟に対応できるのです(図3)。

図3:FIWAREは、都市のニーズに合わせたスマートシティサービスの実現に必要なプラットフォーム機能を実現できる

 次回は、日本国内におけるFIWAREの活用事例を紹介します。

友水 明澄(ともみず・あすみ)

NEC クロスインダストリー企画本部