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- 欧州発の都市OS「FIWARE」の姿
欧州の先進事例にみる都市の課題とFIWAREの役割【第4回】
スペイン・サンタンデール市とポルトガル・リスボン市
これまで都市OS(基本ソフトウェア)としての「FIWARE」について、その生い立ちや基本的な考え方、アーキテクチャーなどを説明してきました。スマートシティの構築においては、第1回で述べたように、データ利活用の思想との親和性の高さからFIWAREの活用が進んでいます。今回は、その一例として、FIWAREを活用しているスペインのサンタンデール市と、ポルトガルのリスボン市でのスマートシティの取り組みを紹介します。
2019年5月27日、最先端の都市づくりを目指す「スーパーシティ構想」を盛り込んだ改正国家戦略特区法が成立しました。2020年秋にもスーパーシティ構想への提案を自治体から募り、選定する予定です。日本同様に各国が今、都市の課題をAI(人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)といったデジタル技術によって解決するスマートシティに向けた取り組みを進めています。
現在世界では、都市に人口が集中する「都市化」が進んでおり、その動きは今後、さらに加速すると予測されています。都市に住む人々の割合は、2018年度時点ですでに世界人口の半数を超えており、2050年には世界人口の3分の2が都市部に居住するといわれています。
これに起因して、インフラ整備の遅れや、生活格差の拡大、また食糧や水、エネルギー、レアメタルなどの資源不足、気候変動など、さまざまな社会問題が顕在化しています。
初期のスマートシティは、電力や交通など分野ごとのサービスを効率化する分野特化型スマートシティでした。しかし、第2回で述べたように、都市の課題は分野横断で相互に影響し合います。そのため、持続的な都市経営のためには、包括的な取り組みが必要になります。
それだけに、包括的な取り組みを指向する先進的なスマートシティの取り組みが世界中で注目されています。その一例が、スペインのサンタンデール市とポルトガルのリスボン市です。
欧州先進事例1:スペイン・サンタンデール市
サンタンデール市は、スペイン北部にある人口17万人ほどの都市です。国内有数の観光地である同市では、慢性的な交通渋滞や公共サービスのコスト増、大気汚染などの環境問題が課題になっていました。
これらの課題に対し同市は、個別行政サービスのスマート化を図るスマートシティプロジェクトを立ち上げます。「シティオペレーション基盤(CCOC:Cloud City Operation Centre:CCOC)」を導入し、市内にセンサーを設置しました(図1)。データを“インテリジェンス(頭脳)”として管理し、統合的に解析・予測・自動化することで、市のオペレーションを包括的に可視化し街全体の最適化を図っています。
具体的なプロジェクトの1つにゴミ回収事業があります。ゴミ箱に内容量を計測するセンサーを設置し、ゴミの量を計測しています。一般にゴミの収集は決められたルートを回りますが、サンタンデル市では、空のゴミ箱は収集ルートに含めないなど、センサーで取得した実際のゴミの量に応じて収集ルートを変更し、効率を高めています。
その結果、収集にかかるオペレーションコストを15%削減できました。より効率的な公共サービスを提供しながら、ゴミ収集車が出す排気ガスを削減し環境改善にも貢献しています。
交通渋滞を改善する取り組みにもデータを活用しています。市内の駐車場に設置したセンサーで取得した空き状況をリアルタイムでサイネージに表示しています。同市の慢性的な交通渋滞は、駐車場の空車待ちが主な原因だっただけに、空き状況の可視化により渋滞を約80%も解消できました。
ほかにも、大気の環境情報、渋滞情報、水道の利用量情報などをCCOCが一元管理しています。これらのデータはすべて公開されており、行政や民間がオープンデータとして利用できます。
市民が意見を投稿できる機能があり、誰もが積極的にまちづくりに参加できる仕組みを備えています。まちづくりに官民連携で取り組むエコシステムをサンタンデール市は構築しています。