- Column
- 欧州発の都市OS「FIWARE」の姿
人との共存が期待されるロボットの連携基盤にもなるFIWARE【第5回】
会津大学とTISのロボット連携の共同実験
物流業の“ラストワンマイル”にも適用
TISの研究開発部門である戦略技術センターがRoboticBaseの研究開発に着手したのは2017年秋のことです。オープンソースソフトウェア(OSS)の利用ありきで調査を開始します。
その理由をTISデジタル社会サービス企画部 エキスパートの石橋 靖嗣 氏は、「TIS単独では困難な開発を、OSSを利用することで仲間を作り、色々な開発者が集うコミュニティと共にプロダクトの成熟を目指すという方針を立てたため」と説明します。
そしてIoTのための基盤として利用されているOSSを調べるなかでFIWAREに巡り逢います。「欧州ではIoTでの利用に実績があり、NGSIという共通インタフェースが定義されていた一方で、ロボットの制御にはほぼ実績がなかったことにTISは興味を持った」(石橋氏)といます。
FIWAREの調査におよそ4カ月をかけた後、そこから約2カ月でRoboticBaseのプロトタイプを完成させます。「日本語ドキュメントが整備されていなかったり、コミュニティが成熟しておらず必要な情報が見つからなかったりという問題はあるが、サイトで紹介されているチュートリアルを参考に、なんとかプロトタイプを開発できた」とRoboticBase開発メンバーの1人である占部 一輝 主任は話します。
2018年度の実証でFIWAREがロボット制御基盤に利用できると確信したTISは、2019年度の実証では、企業向けシステムを想定し、複数の業務プロセスにロボットを組み込むことを検証しました。人が行ってきた業務をロボットに置き換えるのではなく、人とロボットの役割分担を定義しようとする試みです。
具体的には、物流業を想定し、既存の在庫管理システムや注文管理システムに自律移動配送ロボットを連携させ“ラストワンマイル”の自動化に挑戦しました(図2)。TISは、既存の得意領域である基幹業務システムに対して、全く新しいRoboticBaseの連携が将来必要になると考えていたのです。
石橋氏は「複数のロボットとプラットフォームが役割分担しながらサービスを提供することの検証と、その際に、どのようなデータをやり取りすればよいかという「ロボットのデータモデルの標準化」が必要だと感じて取り組んだ」と話します。
ロボット分野の標準化やOSSコミュニティーの連携を期待
TISは現在、ロボットとICTの融合を加速し市場を広げるために、標準化コミュニティの積極的に参加し活動を展開している。
たとえば、ロボットメーカーや学術機関が多数参加する「ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)」では、移動系ロボットと上位システムとの役割の明確化に取り組んでいる。Robot Operating System (ROS)の世界では、「ある程度のデータモデルが取り決められているが、ROS以外での適用性が低く標準化や連携に困難な部分がある」(石橋氏)からだ。
ロボットメーカーとデータモデルの標準化を進め、それをロボットメーカーが採用すれば、利用者は、同様の機能を持つロボットを複数メーカーの製品から選択できるようになる。
また「官民データ活用共通プラットフォーム協議会(DPC)」でも、ロボットインテグレーターやロボットメーカーの意見を聞きながらデータモデルのドラフトを作成している。「データ流通推進協議会(DTA)」では国際標準化推進委員会に所属し、データ流通の国際標準規格の策定を目指している。
TISはまた、FIWAREの普及活動を担う「FIWARE FOUNDATION(FF)」にもゴールドパートナーとして参加する。2019年に立ち上がった「Robotics Tech Roadmapワーキング・グループ」に属し、FIWAREをベースにしたRobotics分野のテクノロジーロードマップの検討を進めている。ここでもTISは「データモデルの標準化に取り組みたい」(石橋氏)考えです。
2020年5月、FFにOSSの基本ソフトウェアであるLinuxのディストリビューター最大手の米Red Hat(米IBM子会社)がプラチナメンバーとして参画しました。RedHatがOSSコミュニティーで培ってきた技術やビジネスモデルなどが将来、FIWAREコミュニティーの付加価値になることを期待しています。
今後、FIWARE自身の進展とともに、OSSとコミュニティーのエコシステムを利用したサービス開発が国内外で拡大していくでしょう。
村田 仁(むらた・ひとし)
NEC PSネットワーク事業推進本部マネージャー