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  • IoTのラストワンマイルを担うLPWAの基礎知識

IoTを考えるために知っておくべき通信網の特性【第1回】

遠距離を“のんびり”ワイヤレスでつなぐ

中村 周(菱洋エレクトロ ビジネスデベロップメント部 部長)
2020年2月10日

IoT(Internet of Things:モノのインターネット)への取り組みが本格化してきている。コネクテッドカーや工場IoT、あるいは農業や水産業といった一次産業など、その適用領域もさまざまだ。そうしたIoTの実現において、大切なデータを集めるためセンサーを現場に設置するためのネットワークとしての「LPWA(Low Power Wide Area)」への関心が高まっている。なぜLPWAなのか、IoTの“ラストワンマイル”を支える通信網について考えてみる。

 4G/LTEという携帯電話網が普及したことで、誰もが世界中から好きな情報をいつでも手に入れられるようになった。「YouTube」をはじめとする動画もストレスなく観ることができ、モバイルは携帯電話の役割を超越し、仕事に、コミュニケーションに、趣味・娯楽にと生活に必要不可欠な存在になっている。

 さらに5Gの登場により、無線通信網は、さらに高速化する。同時多接続、低遅延も相まって、未来はIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の文字通り、すべてのモノがネットにつながるパラダイムシフトを引き起こそうとしている。

「ほったらかしで運用したい」が現場の本音

 しかし、5Gは 万能ではない。特に5Gが利用する「mmWave(ミリ波)」と呼ばれる超高周波数帯域は、減衰が激しく長距離の通信をサポートしない。「Sub6(6GHz以下)」を用いても基地局と端末の距離には制限がある。5Gキャリア各社は、5Gの商用サービスに向けて、大規模な数の基地局を設置する計画を立てる。消費電力についても、最も低消費な端末でも電池での駆動時間は「週間」単位なのが現状だ。

 一方で、IoT化を進めるシーンでは、意外と多くのニーズが出てくる。「電池1本で何年も運用したい」「新たな電気配線工事はしたくない(できない)」「高速である必要はないし、ほったらかしで運用したい」などだ。しかしながら4GやWi-Fiといった高速データ通信の仕組みでは、こういったシーンでは満足を得られない。

 たとえば、チェーンストアやコンビニ、レストランなど、全国に多数の店舗を構えるチェーン店を考えてみよう。食品を扱う事業者は、食品衛生法が改正されたことで、原則すべての事業者が2020年6月までに「HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)」に沿った衛生管理を実施しなければならなくなった。冷蔵冷凍庫の温度-時間管理が必須のため、全店舗の冷蔵冷凍庫のIoT化が急務になっている。

 1店舗当たり冷蔵庫が30台あるとすれば、全国100店舗なら3000台の冷蔵庫の温度を管理する必要がある。そんなチェーン系スーパーの経営者にすれば、冷蔵庫の温度が秒単位で変化することはないため、基本的には10分~1時間に1度温度を計測してメモリーに格納。そのデータを数時間ごとにまとめてクラウドに送信すれば十分だと考えるのが一般的だろう。

 この経営者に「5G通信を使えば超高速でのデータ通信ができる。ただ電池の消耗が速いため5日に1回の電池交換が必要」、つまり「5日に1回、3000本の乾電池を買って取り替えろ」と言って甘受されるだろうか。交換する現場もそんな対応は嫌がるだろうし、年間にすれば、およそ20万本の乾電池を購入するのも嫌だろう。乾電池に代えて、3000台の冷蔵庫に設置する温度計の電源確保のために配線工事をするとなれば、費用と手間の両面から受け入れがたい。

最先端技術が「悪」の解決策にもなる

 秒単位で温度変化が起こることは物理的にあり得ず、データを低速でしか送信できなくても誰もイライラしない。温度データの送信容量も、データの送り方や表現の仕方にもよるが、1回当たり数十バイトもあれば十分にお釣りがくる。このケースでは、「高速」は“宝の持ち腐れ”を通り越し「悪」である。

 それよりもむしろ「電池駆動する温度センサー本体をネジや磁石でペタンと冷蔵庫に張るだけ。電池交換は数年に1度」のほうが、経営者にとって、はるかに現実味がある。

 とはいえ、4G/5Gと高速化が進む令和の時代に、上記のような経営者のニーズに答えられる通信の仕組みがあるのだろうか。高速・大容量化の時代に一見逆行するかのような“のんびり、ゆったり”と省エネでデータを送り続けられるワイヤレステクノロジー、それが「LPWA(Low Power Wide Area)」である。IoTによって現場の課題解決に取り組む方々が、このLPWA採用に動いている。

 次回は、LPWAの仕組みの説明の前に、低速だが省エネルギーのLPWAを使って、どのような経営課題が解決できているのか、その具体例を紹介することで、IoTのラストワンマイルが必ずしも高速・大容量である必要がないことをまずは理解し、LPWAの活用イメージを膨らませていただく内容にしたい。

中村 周(なかむら・あまね)

菱洋エレクトロ ビジネスデベロップメント部 部長。中央大学電気電子工学科卒業後、キーエンス FAIN事業部でFA(Factory Automation)業界の営業を8年経験。NSマイクロエレクトロ入社後、係長職で半導体業界のFAE(Field Application Engineer)として製品/ソリューションの紹介・提案、技術面における顧客の要望ヒアリング、技術サポートなどを含む営業支援全般に従事。その後、富士エレクトロニクス/マクニカでは課長として、無線半導体などの分野でマーケティングマネージャーを務め、2018年2月より現職。

IoT/無線業界のキーマンと深いネットワークを構築し、通信規格の壁を超えたLPWAコミュニティの立ち上げに注力し、菱洋エレクトロが主催するLPWAイベント「5GとLPWAべんきょうかいplus」も取り仕切る。同イベントには日本のIoT業界から200人を超える技術者が参加する。