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  • IoTのラストワンマイルを担うLPWAの基礎知識

LPWAがもたらすラストワンマイルの未来【第6回】

中村 周(菱洋エレクトロ ビジネスデベロップメント部 部長)
2020年7月27日

これまで、LPWA(Low Power Wide Area)は、さまざまな分野で活用され、それぞれのニーズに対応するために多くの特徴ある規格が複数種、存在していることを説明してきた。最終回は、都市部以外の農林水産業の課題解決策として広がるLPWAの活用例と、今後の5GなどLPWAを取り巻く通信環境の未来について説明したい。

 LPWA(Low Power Wide Area)は、最新テクノロジーがあふれる都市部や、人口の多い地域にのみ向いているのかといえばそうではない。たとえば、田園風景が広がる農村部での、主に農林水産業との相性がいいことが注目され、活用例が出始めている(図1)。

図1:農林水産業界で活用されるLPWA

 地方の農村部では人手不足が加速している。『農業労働力に関する統計』(農林水産省)」によると、農業就業人口は2010年の260万人が、2019年には168万人と、ここ10年に、まさに“つるべ落とし”のように減少した。

 さらに2019年の168万人のうち、およそ7割を占める115万人が65歳以上の高齢者であり、農業就業者の平均年齢は67歳に達している。さらに、この先 10年間に農業就業人口は指数関数の逆数的に減少する。農業は今後、最も人手不足が危ぶまれる市場なのだ。

 にもかかわらず農業・林業・水産業の世界には、人の足と目で多くの時間をかけて見回るといった非効率な作業が、まだまだ存在する。この人手不足と非効率さの2つの課題解消にLPWAは一役買ってくれる。

 田畑に囲まれている土地ならば、電波の障害物になる高層な建物がない。都会のように、だれもがWi-FiやBluetooth、LTEを使っていたり、水道メーターや自販機に設置されたPHS電波が飛び交ったりという状態でもない。電波的に混み合うことなく、センサーが発するLPWAの電波が雑音なくゲートウェイまで伝搬される。土地の特性上、LPWAと農村部は相性が良いといえる。

農林水産業に多い見回り作業をLPWAで減らす

 農林水産の世界で労働力不足を押し上げる要因の1つに、見回り作業の多さがある。人が見回るという作業を減らすためのLPWAの使用方法は多数ある。

 たとえば、猟師が山に仕掛けた複数の鳥獣用の罠に、振動センサーとLPWA送信機をしかけて獲物がかかっているかを把握する。ビニールハウスの室温を遠隔で監視し、ヒーターの不調をいち早く察知して農作物を冷害から守る。あるいは、養殖魚のプールのpH値や温度を遠隔監視したり、ダムや河川の水位、地すべりをモニタリングしたりといった利用例もある(表1)。

表1:見回り作業を減らすためのLPWAの使用例