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  • IoTのラストワンマイルを担うLPWAの基礎知識

LPWAに多くの規格が存在する理由【第5回】

中村 周(菱洋エレクトロ ビジネスデベロップメント部 部長)
2020年6月19日

 キャリア系LPWAの代表がLTE-Cat.M(以下LTE-M)だ。携帯キャリア網においてLTEと同じ周波数帯を使用する。NB-IoTは既存LTEとは異なる技術を利用しているが、キャリア系のLPWAだ。

 キャリアが展開する全国ネットワークを使用するため、全国どこでもエリアを選ばず「つながる」のが大きな特徴だ。「携帯電話各キャリアのスマートフォンが使える範囲で使える」とイメージするとわかりやすい。

 いずれもキャリアと契約する形式のため、月々の数百円の通信費が安価とは言え発生する。また伝送速度が速い分、消費電力は大きく、バッテリー駆動であれば、1週間に1度の充電などが必要になる。ただ車に設置するなら電源はあるし、子供や高齢者が使用するタグなら数日に1回、家庭で充電すれば良い。

 これらの特徴から、都道府県をまたがる移動など、エリアを限定できない移動が発生しうる高齢者や子供の見守り、運輸車両の管理など、人やモノの位置を知る、いわゆるロケーショントラッキングに多用されている。

 一方、ノンキャリア系LPWAは、SubGHz(サブギガ)帯域(1ギガHzに満たない周波数)を使用することで、電池の保ちが桁違いに良く、電波の回り込みも優秀なことが特徴である。奥まった部屋や隣の建屋の中にまで電波が包み込むように届くイメージだ。

 アナログテレビの停波により、920MHz帯域が免許や申請なく比較的自由に使える周波数帯になっている。利用者は購入後にすぐに使用できるよう、各社が同周波数帯を使うセンサー類やゲートウェイを発売している。

 製品の購入後は、利用者自身の判断でゲートウェイやセンサーを設置し、そのネットワークを含め自社や個人の財産として運用できる。ゲートウェイと各種センサー間の通信は、Wi-Fi機器とルーターの通信のように、どれだけ使用しても通信料はかからない。ただし、ゲートウェイから先の通信手段は別途必要になる。

 こうした特徴から、これまで紹介してきたように、工場でのセンサー類の管理や温度管理、スーパーマーケットなどリテール業界でのHACCPやプライスタグの管理、畜産業における牧場内での牛の位置の管理など、限られたエリア内における各種管理に適している。

すべての顧客ニーズを補完するLPWAは存在しない

 2020年6月時点で、商用利用が可能なLPWAの規格には、いくつかの種類がある(図1)。ここ数年で非常に多くが実装されてきており、これからも進展していくだろう。しかし、すべての顧客ニーズを補完するLPWAは、この世にはまだ存在しないのも事実である。

図1:代表的なLPWA規格と、その特徴

 たとえば、ノンキャリア系の代表格であるLoRaWANやZETAは、通信範囲は半径数キロメートルなどに限られ、伝送速度は遅いが、通信コストはゼロに近い。センサー端末の電池寿命は長く、使い方次第だが、一般的な乾電池1本で数年単位の駆動が見込める。電池交換を省ける、通信料がかからないことから、高所や危険エリアなど人が近づきにくいところや、1カ所に大量のセンサーを設置するケースには適している。

 すでに仕組みが構築されているものを“そのまま”使いたいか、“自由にカスタマイズ”して使いたいかという点も、規格を選ぶ際の1つのポイントになる。

 キャリア系と、ノンキャリア系の中でもSigfoxは、無線通信網を事業者が運営をする形を採っている。事業者が基地局を設置し、運用や回線を安定的に提供するため、利用者は導入時、ネットワークを利用する以上のことを意識する必要がない。

 それに対し、LoRaWANやZETA、Wi-Sunは自衛網での運用になる。アクセスポイントの設置場所など、ネットワークの仕組みや構成を利用者が選択・変更できる。設備の選定から調達、運用までの工数が少なからずかかってしまうが自由度は高い。

目的が決まれば使用すべき規格は明確に絞り込める

 多くの規格が存在するLPWAだが、その世界は何も戦国の世のごとく群雄割拠しているわけではない。筆者は仕事柄、日々多数の顧客ニーズに対面するが、どの規格を用いるかで迷うといったケースには、ほとんど遭遇しない。顧客が何をしたいのかを聞いた時点で、たいていは1〜2種類の規格しか使いようがない状態になり、選定に時間を要さない。

 時代はLPWAとは真逆の5G通信による「超高速・低遅延・多接続」の世界へ突入しようとしている。その5Gの延長にある6Gにおいては、超低消費電力性が付加されるという。新しいテクノロジーは次々と生まれてくるが、それを私たちが身近に感じ、産業シーンで当たり前のように使われるようなるのは、まだまだ遠い未来の話である。

 現実世界では、さまざまな分野で非効率な「見て回る」作業が続けられている。そうした非効率を確実に減らし、労働人口の右肩下がりという、日本が直面している社会問題を解決するためには今利用できるテクノロジーが重要だ。多数のLPWA規格は、互いのメリット/デメリットを補完し合いながら世の中にあふれる幅広いニーズを満たしているのである。

中村 周(なかむら・あまね)

菱洋エレクトロ ビジネスデベロップメント部 部長。中央大学電気電子工学科卒業後、キーエンス FAIN事業部でFA(Factory Automation)業界の営業を8年経験。NSMにてFAE(Field Application Engineer)、富士エレ/マクニカにて無線半導体などの分野でマーケティングマネージャーを務め、2018年2月より現職。

IoT/無線業界のキーマンと深いネットワークで規格の壁を超えた通信系コミュニティの立ち上げに注力し、「5GとLPWAべんきょうかいplus」も取り仕切る。同イベントには日本のIoT業界から200人を超える技術者が参加する。