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  • IoTのラストワンマイルを担うLPWAの基礎知識

LPWAがもたらすラストワンマイルの未来【第6回】

中村 周(菱洋エレクトロ ビジネスデベロップメント部 部長)
2020年7月27日

高速化が進む5Gの短所をLPWAが補う

 共存する他の通信システムとしては、“当分の間(ここでは10年程度と定義する)”は5Gであろう。無線通信インフラの主流が、現行のLTEから5Gに軸足を移していくという大局的な流れは変わらない。

 5Gのキーワードは、高速、低遅延、多接続の3つだ。これらのキーワードにより5Gは世の中のありようを変えていく。

 たとえば、米Apple社は今秋には5G対応のiPhoneを発売するだろうし、米Qualcommがリリースした5Gチップセット「Snapdragon 690」は5G対応の格安スマホのリリースを後押しするだろう。

 近い将来、自動車の自動運転や、目の前を通る人に合わせて広告を出すデジタルサイネージ、マルチアングルのスポーツ観戦、数百人単位が同時参加し戦うゲーム対戦などなどのアプリケーションが広がってくる。これらは間違いなく5Gによって支えられる。

 ただ一方で、5Gには、長距離、低消費電力のキーワードがない。LPWAは5Gに比べれば確かにマーケットは小さいが、そこには確実に一定のニーズが存在する。“当分の間”は、形を変えながらも間違いなく市場で求め続けられる。

 5GとLPWAは、そもそも互いに競合するものではない。互いの欠点を補い合いながら用途によって使い分けることで、私たちの仕事や生活をより快適に導いていく。

 やがてはLPWAも、低消費を維持しながらデータレートは、ゆるやかに高速化が図られるだろう。5Gも高速性を維持しながら、ゆるやかに低消費電力に向かうだろう。

 それぞれの短所を少しずつ補っていく流れは、もちろん存在するであろうが、互いの矢印が交わり、片方の技術が存在意義を失うまでには相当な時間がかかる。

 筆者自身は、モジュール間インタフェースが光化されると言われる6Gが実装されるまでは「その時は来ない」と予想している。5GでLPWA並みの低消費電力、つまり数年単位の電池寿命を持つ5G無線モジュールが市場に安価に出てくることは“当分の間”ありえない。

 しかし一方で、日本の労働人口である15〜64歳の人数が、日本の総人口に占める割合は、1997年ごろの70%でピークアウトし、2019年には59.7%にまで右肩下がりが続いている。日本のあらゆるマーケットにおいて、リソース不足は6Gの登場を待ってはくれないのだ。

 すでに、スーパーマーケットのレジは1台2人体制から、スタッフが1人着くレジとセルフレジの組み合わせに切り替わりつつある。回転寿司ではロボットが寿司を握り、ホテルではルームサービスで頼んだピザをロボットが部屋の前まで運ぶ時代である。

 昭和の時代であれば、これらを普及させようとすれば「人のぬくもりが・・・」「人と人とのふれ合いが・・・」など、人間同士のつながりが薄れ、味気ないコミュニケーションになると抵抗を覚える人が多かったであろう。

 しかし、どの市場でももう、手段や見た目を選んではいられないほどに労働人口が減少し、経営者にのしかかる大きな課題になっている。にもかかわらず「センサーや計器を見るために遠くに足を運ぶ」といった非効率な働き方の解消は後回しにされてきた。

コロナ禍によりLPWAの活用範囲が、さらに広がる

 そうした考え方も、2020年の思わぬコロナ禍により、大きく変わろうとしている。自宅で、より多くの時間を過ごす人も増えた。友人との“オンライン飲み会”を楽しむために料理の宅配を利用した人も少なくないだろう。

 そんなご馳走が届く時間や場所は今後、LPWAによって把握され、その食の安全はLPWAによって取得された保管温度の自動帳票によって守られていく。

 家で過ごすあなたのバイタルデータ(血圧・体温・心拍数など)は、LPWAでクラウドに蓄積されていく。近い未来には、パーティに花を添える音楽が、あなたの心理状態に合わせてセレクトされるようになるかもしれない。

 医療の世界では、離島などにおける遠隔手術のコントロールなどでは5Gといった低遅延・高速な通信手段が必要だが、遠隔地で暮らす患者のバイタルデータであれば、LPWA経由で十分なケースも多々あるだろう。

 自宅にいながら、遠く離れた実家にいる年老いた両親の安否を手元のスマートフォンで確認する。さらには、足を悪くした両親の代わりに故郷の畑の土質をチェックし、水と肥料を遠隔操作で撒くといったことが実現されるかもしれない。

 LPWAがもたらす未来は、LPWAの世界に1歩を踏み出した者から順に到来する未来でもある。遅かれ早かれ体験するのならば、身の回りのちょっとした非効率をLPWAで解決してみてはいかがだろうか。

中村 周(なかむら・あまね)

菱洋エレクトロ ビジネスデベロップメント部 部長。中央大学電気電子工学科卒業後、キーエンス FAIN事業部でFA(Factory Automation)業界の営業を8年経験。NSMにてFAE(Field Application Engineer)、富士エレ/マクニカにて無線半導体などの分野でマーケティングマネージャーを務め、2018年2月より現職。

IoT/無線業界のキーマンと深いネットワークで規格の壁を超えた通信系コミュニティの立ち上げに注力し、「5GとLPWAべんきょうかいplus」も取り仕切る。同イベントには日本のIoT業界から200人を超える技術者が参加する。