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もう実店舗はいらない? 新型コロナが加速する金融業界デジタル化

貴志 優紀(Fintech協会理事/Plug and Play Japan Director)
2020年8月11日

非接触へのニーズは実店舗外にも変革を求める

 実店舗からオンラインサービスへのシフトが進むとしても、COVID-19はFintechベンチャー企業など実店舗を持たない企業にも大きな影響を与えようとしています。キーワードは「接触から非接触へ」です。感染リスクを恐れ、自宅外でモノに触れることを避ける傾向が強まっているためです。

 中国ではロックダウンの間、市場の決済額全体が減少し、解除後も元のレベルには戻っていません。その中で、伸びたのがオンラインのトランザクションです。オランダのAdyen(アディエン)が提供する国際決済サービス「Adyen」のトランザクション量はコロナ前後で40%増加しました。

 株式市場でも決済大手への期待が高まっています。Adyenと米Paypalの株価は、2020年3月の底値から比べると同年7月には一時、約2倍にまで急伸しました。この追い風を受け両者は積極的な人材採用に動いています。

 経済が停滞し手元資金のニーズが高まったことで、P2P(個人間)の融資サービスであるレンディングも活発になりました。ただ、個人間のカネの貸し借りでは当然、貸す側もリスク許容度が高くないと成り立ちません。この傾向が今後も続くかどうかは不透明です。

 「接触から非接触へ」への移行は実店舗の店頭でも起こっています。米MasterCardが2020年3月に実施したグローバル調査によれば、非接触型カード決済の割合は、コロナ前と比較して25%増えました(『Contactless payments will be the new normal for shoppers in the post Covid-19 world』)。

 こうした消費者の意向を受け、店舗もカードをかざすだけで決済ができる端末の導入を急いでいます。現金主義だったドイツでも、キャッシュレス決済用端末の導入意欲が高まっていると言います。英国では政府がキャッシュレス化を進めるよう店舗に働きかけています。

ゴールドマン・サックスがAmazonと手を組む

 B2C(企業対個人)だけでなく今後は、B2B(企業間)の法人向け金融サービスにおいてもオンライン化が進むと見られています。海外では融資の審査にトランザクションデータなどを使って、これまでリーチできていなかった中小企業に融資先を広げる動きが出ています。

 その一例が米国における金融大手のGoldman SachsとEC(Electric Commerce:電子商取引)世界最大手のAmazon.comによるタッグです。この提携によりAmazon.comの出店者はGoldman Sachsを通じた融資を受けられるようになります。Goldman Sachsから見ればAmazon.com経由で、これまでリーチできなかった中小企業へのサービス展開が可能になるわけです。

 さらにはAmazon.comが持つデータを活用し、Goldman Sachsが中小企業向け格付けなど新たなサービスを開発する可能性もあります。

 Fintechのスタートアップ企業にとっては、COVID-19は今後、Venture Capital(VC)からの資金供給が減るマイナス要因にもなり得ます。実際、オンライン銀行の英Monzo(モンゾー)は、最近の資金調達で企業価値を引き下げました。淘汰が進み骨太なスタートアップだけが生き残るとも言えます。

 淘汰に耐えて生き残ったFintech企業にしても、コロナ禍で芽生えた動きを継続し常態化していくためには、UX(User Experience:ユーザー体験)の追求が求められます。ロックダウンをきっかけに、金融アプリを初めて使ってみたという人が少なくありません。彼らが便利さを実感し納得して使えるような体験を提供し続ける必要があります。

 オンライントランザクションが活発になるにつれ、セキュリティも強く意識されるようになっています。コロナ禍でサイバーアタックの数が増えたことから、安全性の高いネットワークをいかに維持するかが重要になっているためです。オンラインでの本人認証を手がけるイスラエルのスタートアップが頭角を現すなど、セキュリティ分野のスタートアップは今後、伸びると見られています。

ニューノーマルの定着は年内に見極め

 ここまで中国や欧米の動きを見てきましたが、キャッシュレス化など遅れているとされる日本はどうでしょうか。消費者が非接触の決済を好む傾向は変わらないかもしれませんが、店舗の側は景気が悪化すれば手元資金を確保するために現金決済を望む可能性もあります。

 そうした店舗側のニーズに応えるため、LINEの決済サービス「LINEペイ」は2020年4月、飲食店や小売店に売上高を即日、無料で振り込むサービスを開始しました。期間限定のサービスですが、素早い現金化が可能かどうかもキャッシュレス化のポイントになるでしょう。

 ニューノーマルを見据え、各国の一部企業はデジタル化に大きく舵を切りましたが、会社の経営方針としてどこまでを打ち出し移行させるかについては、金融機関によってスピード感や程度の差があります。経営が厳しくなる今だからこそイノベーションを加速すべきという企業もあれば、目先のビジネスの立て直しに追われる企業もあるでしょう。

 コロナ禍が金融業界にどのような影響を、どの程度与えるのかが本格的に明らかになるのは、もう少し先になります。世界各国でロックダウンが解除されつつありますが、その後のニューノーマルが定着した時に、どんな影響があるかを注視していく必要があります。経済活動の回復に合わせ、早ければ2020年内にも見えてくるでしょう。

 5〜10年後に振り返ってみれば、2020年は金融各社の優劣を決める分岐点になったと捉えられるかもしれません。

貴志 優紀(きし・ゆうき)

Fintech協会理事。Plug and Play Japan Director)。2008年ドレスナー・クラインオート証券に新卒入社後、2009年にドイツ証券へ転職。金融商品のバリュエーション、決済などオペレーション業務に従事。2016年ケンブリッジ大学にMBA留学後、2018年5月よりPlug and Play JAPANに参画。Fintech部門のディレクターとしてFintechプログラム全般を担当。