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もう実店舗はいらない? 新型コロナが加速する金融業界デジタル化
Fintechは、デジタル技術により新たな金融サービスを生み出す革新的な取り組みです。本連載ではFintechのグローバルな動きを紹介していきますが、第1回は、現在さまざまな業界に大きな影響を与えている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が、金融業界に大きな転換を迫っている実状を見てみましょう。最大の転換点の1つは「金融機関の店舗は本当に必要か?」です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の防止に向けて世界各国は2020年の春、ロックダウンに踏み切り、消費者は外出が制限されました。さまざまな業界が大きな影響を受けましたが、新型コロナウイルスは金融業界にも、さまざまな疑問を投げかけました。
たとえば、外出制限により消費者は金融機関の実店舗を自由に訪れられなくなりました。ただそれで、実際には、どの程度の不便を被ったのでしょうか。
BCG(ボストン コンサルティング グループ)の調査では、「ロックダウン解除後に金融機関の実店舗を利用するかどうか」という問いに対し、「使わない」と答えた人の割合は、米国よりも日本のほうが高くなりました。ロックダウンが解除され、以前と同様に外出するようになった後にも、消費者の意識変化は継続するでしょうか。
まずは、これまでの海外の動きを中心に見ていきましょう。
非対面化でオンラインサービスが増加
世界で最初にCOVID-19が拡大した中国・武漢では、銀行が閉鎖されたことに多くの人が気づかなかったそうです。中国は、新型コロナ以前からキャッシュレス化が進んでおり、銀行の実店舗に出向く習慣が薄れていたという面はあります。それでも、金融機関にとって、店舗の必要性を改めて見直すきっかけになったのは間違いないでしょう。
もともと多くの金融機関は、低金利時代の始まりなどを受け、実店舗の閉鎖を進めてはいました。それに伴いオンラインサービスの強化に取り組んでいます。
英国のHSBCは、人員削減目標を掲げ、店舗の一部業務をオンラインに移行しています。HSBCが開始した新たなオンラインサービスの数は、2019年には160でしたが、2020年は前半の半年間だけで260に上っています(米American Banker調べ)。コロナ禍でオンラインサービスの開発を加速させた格好です。
この傾向は米国でも同様です。J.P. MorganやCitibankなどの大手金融機関が、実店舗をどの程度維持すべきかの議論を始めています。ただ、米国ではコロナ禍で景気が悪化する中、金融機関は雇用維持に努める必要もあります。従業員削減につながるため実店舗を一気に閉鎖するのは難しく、デジタル化とのバランスが求められそうです。
こうした傾向は今後、「ファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)」が持つ意味を変えるかもしれません。ファイナンシャルインクルージョンは現在、銀行口座などを持てない貧困層などを主な対象にした救済策に位置付けられています。
しかし、金融のデジタル化が急速に進めば、デジタルツールに対応できない高齢者などをどうケアするかも大きな課題になってきます。実際、中国では、ロックダウンが解除された際、金融機関の実店舗を訪れ列を作ったのは高齢者だったといいます。こうした層を救済することも、ファイナンシャルインクルージョンに含まれてくる可能性があります。