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ミレニアル世代が支持するFintechの姿【第3回】

貴志 優紀(Fintech協会理事/Plug and Play Japan Director)
2020年10月12日

手数料の無料化で新たな投資家を生み出す

 Klarnaと同様にミレニアル世代の需要をうまく取り込んだFintechが新興オンライン証券の米Robinhoodです。Robinhoodは、売買手数料が無料の株取引用アプリケーションを提供しています。数回のタップで株を売買できるなど、初心者にもわかりやすいシンプルなUI(ユーザーインタフェース)を売りにしています。

 Robinhood利用者の平均年齢は31歳。株取引は初心者でもモバイルアプリは使い慣れている若者を中心に、2020年5月時点で1300万人のユーザーを抱えています。

 Robinhoodの平均取引量は、2020年3月に前年同月比で3倍になり、4月以降も高水準を維持しています。2019年の取引金額が前年の1.5倍になるなど以前から急成長を遂げてきましたが、2020年に入って需要拡大に拍車がかかった格好です。

 その背景には、2020年3月のCOVID-19の拡大をきっかけに株価が急落したことを“チャンス”だととらえ、株取引を始める人が増えたことがあります。コロナ関連の給付金を元手に取引を始めた人も多そうです。

 ただRobinhoodの平均口座金額は1000〜5000ドルにとどまります。株取引初心者の若年層の利用が多いことから、E-Trade(平均口座金額10万ドル)、TD Ameritrade(同11万ドル)、Charles Schwab(同24万ドル)などと比べると極端に少額です。運用資産残高も200億ドルと、E-trade(6000億ドル)、Charles Schwab(3.8兆ドル)に対し大きく見劣りします。

 それでも、Robinhoodの利用者を指す「Robinhooder」という新語が生まれ、一時は株価形成に対する影響を指摘する声まで上がりました。Robinhoodが頭角を表したことで、Charles SchwabやAmeritrade、E-Tradeなど、競合するオンライン証券は2019年、こぞって株取引を無料にしました。

 2019年11月にはCharles SchwabがTD Ameritradeの買収に、2020年2月にはモルガン・スタンレー証券がE-Tradeの買収に、それぞれ合意しています。手数料の無料化が業界再編の大きなきっかけとなったと言えるでしょう。

 一方で、投資初心者が株のオプション取引で大きな損を出したとの勘違いからショックを受けて自殺するなど、利用者の拡大に伴ってRobinhoodの社会的な影響も大きくなっています。手数料の無料化によってリテラシーやリスク許容度が低い人までがリスクの高い取引をしてしまうという潜在的な危険性を指摘する声も少なくありません。

 こうした指摘を受けRobinhoodは、オプション取引のサービス提供やUIの変更といった対応を進めています。

 Robinhoodの最大の特徴であった“手数料ゼロ”を各社が導入し横並びになっただけに、今後は商品やサービスの多角化が肝になりそうです。そのためのM&A(企業による統合と買収)も活発になるでしょう。

 たとえば差別化策の1つに、AI(人工知能)や数学的なアルゴリズムによって投資先を選んだりアドバイスしたりする「ロボアドバイザー」があります。同分野のスタートアップであるPersonal CapitalとFolio Investingを、EmpowerとGoldman Sachsがそれぞれ買収しています。

Fintechの利用率で日本は最下位

 さて、本連載では3回にわたって世界各国で広がるFintechの最新事情を紹介してきました。最先端のFintechは欧米企業が主な担い手になっていますが、消費者の利用率を見ると様相は一変します。

 Ernst & Youngの2019年のレポートによると、Fintechの利用率は中国とインドが87%で最も高く、ロシアや南アフリカなどの新興国が上位を占めています。一方、日本は34%で最下位です。COVID-19を受けて利用率がどのように変化していくかには注意して目を配る必要があるでしょう。

 日本においても消費者の需要を喚起しながらFintechをどう進化させていくのか。今回紹介したミレニアル層をターゲットにしたFintechは、その一例ですが、Fintechの動向は各国の金融サービス全体の発展にも大きく影響するだけに、目を離せません。

貴志 優紀(きし・ゆうき)

Fintech協会理事。Plug and Play Japan Director)。2008年ドレスナー・クラインオート証券に新卒入社後、2009年にドイツ証券へ転職。金融商品のバリュエーション、決済などオペレーション業務に従事。2016年ケンブリッジ大学にMBA留学後、2018年5月よりPlug and Play JAPANに参画。Fintech部門のディレクターとしてFintechプログラム全般を担当。