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ミレニアル世代が支持するFintechの姿【第3回】

貴志 優紀(Fintech協会理事/Plug and Play Japan Director)
2020年10月12日

2020年9月、後払い決済機能を提供するスウェーデンのKlarna(クラーナ)が欧州におけるFintechのスタートアップとして時価総額トップに躍り出ました。一方、株取引の無料化で業界の慣習やビジネスモデルを壊した米Robinhood(ロビンフッド)の急成長は社会問題まで引き起こしつつあります。両者に共通するのは、ミレニアル世代の圧倒的支持を受けていること。今回は、同世代が支持するFintech企業を中心に最新の動向を紹介します。

 スウェーデンのKlarna(クラーナ)の時価総額は、2020年9月の資金調達によって106億ドルに達しました。これは、チャレンジャーバンク(第2回参照)の英Revolut(時価総額55億ドル)や独N26(同35億ドル)を大きく上回っています。

 Klarnaが2019年夏に資金調達をした際の時価評価額は55億ドルでした。その評価額は、この1年で2倍に膨らんだ計算になります。同社は調達した資金により、アメリカでの事業拡大や、IPO(株式の初回公開)を目論んでいると見られています。

クレジットカードはないけど後払いはしたい若者をつかむ

 Klarnaが手掛けるのは、「Buy Now Pay Later(BNPL)」、つまり後払いの決済システム。これをEC(電子商取引)事業者に向けて提供しています。消費者はKlarnaを導入しているオンライン店舗での買い物であれば、金利ゼロで料金の後払いができます。

 オンライン店舗にすれば、Klarnaへの手数料が発生するものの、売上代金を一括で受け取れますし、新しい決済手段を提供することで利用者を増やせます。すでにスウェーデンのIKEAやH&M、米ナイキといった世界を代表する小売業やメーカーがKlarnaのBNPLを導入しています。

 Klarnaが主なターゲットにしたのは、デビットカードしか持たないミレニアル世代です。「クレジットカードは持ちたくない」もしくは「カードは持てないけれど即時決済もしたくない」という若者から支持を得てきました。

 加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によりECのニーズが高まったことも、大きな追い風になっています。COVID-19の影響で景気が悪化すれば、即時決済はますます嫌われ、後払いの需要が拡大すると考えられています。

 今後の消費の担い手であるミレニアル世代の需要が大きいことから、Klarna以外にも、米国のAffirmやSezzle、Splitit、オーストラリアのAfterpayやZipなど、多くのスタートアップがBNPLを手掛けています。さらに、米Paypalや 米Visaなど、既存の決済サービスやクレジットカード大手も後払いに参入する見通しです。

 先行してBNPLサービスを提供してきたAfterpayの株価は、2020年3月から8月にかけて約10倍にまで急伸しました。ところが、大手参入の報道を受けて同年9月以降は下げに転じています。競争激化の懸念も出てきました。

 ただ今後も、銀行など既存の大手金融機関が積極的にBNPLに参入してくるわけではなさそうです。BNPLサービスは、顧客に対し金利ゼロで提供しているため、大手金融のビジネスモデルには馴染まないからです。

 一方、資金調達や小売店開拓のために、BNPLが金融機関とパートナーシップを組むことはあり得るでしょう。実際、Klarnaは2017年に銀行ライセンスを取得して以降、デビットカードと預金分野で提携し、スウェーデンとドイツでサービスを提供しています。

 若年層におけるクレジットカードの普及率は低いため、BPNLはCOVID-19が落ち着いたとしても、以後の需要拡大が見込まれます。ただCOVID-19をきっかけに景気が極端に悪化すれば、取引金額が減少する上に消費者が後払いで完済できなくなるリスクも高まります。そうなれば事業者は運転資金の確保を迫られそうです。