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Fintechの東京一極集中は変われるか【第4回】

貴志 優紀(Fintech協会理事/Plug and Play Japan Director)
2020年11月16日

日本のFintechは9割以上が東京に拠点

 東京に一極集中している点も、日本のFintechの特徴の1つです。ベンチャー会員数は140社ですが、その所在地は東京都が133社で95%を占めます(表1)。他は、福岡県が2社、香港と埼玉県、千葉県、大阪府、大分県が、それぞれ1社と地方にはFintech企業は、ほとんど育っていないのが実情です。

表1:Fintech協会のベンチャー企業の本社所在地
所在地社数
東京都133
福岡県2
埼玉県1
千葉県1
大阪府1
大分県1
香港1
総数140

 ただ、こうした状況は新型コロナウイルスの感染拡大によって変わる可能性があります。新型コロナのリスクが拡大する以前は、金融機関はどこも対面業務を重視してきました。それがコロナによって、大企業もリモートでの業務にシフトが進んでいるからです。

 こうした傾向がより強まれば、Fintech企業も必ずしも東京に拠点を構える必要がなくなります。地方で有力なFintechが生まれれば、人口減少で疲弊しがちな地方経済の活性化につながることが期待できます。

大手既存企業との連携が進む

 一方の法人会員は、銀行や証券、保険などの金融機関だけでなく、通信会社や広告会社、メーカーなど多岐に渡っています。一見、金融に無関係な業界の企業までがFintech協会に加盟しているのは、Fintech事業に取り込むことで消費者との接点や提供できるサービスを増やそうとの目的があるからです。

 実際、2020年10月にはヤマダホールディングス傘下のヤマダ電機が、情報家電の購入者に向けたバンクサービスや、新築住宅購入者向け住宅ローンなどの金融サービスを開始すると発表しました。

 ヤマダ電機は銀行業の免許は保有していませんが、住信SBIネット銀行の「NEOBANK(ネオバンク)」というBaaS(銀行機能の共有サービス)を利用することで新規参入を果たします。

 日本におけるBaaSは、住信SBIネット銀行やGMOあおぞらネット銀行などのネット銀行に加え、インフキュリオンなどのベンチャー企業も提供しています。BaaSを活用して異業種が金融サービスを提供する動きは、今後も加速するでしょう。

 事業会社だけではなく、Fintechと金融機関のコラボレーションも進んでいます。海外では、チャレンジャーバンクが銀行と競合するなど、Fintechは“ディスラプター(破壊者)”と捉えられる傾向にあります。これに対し日本では、銀行がシステムをFintechに解放したり、逆にFintechが既存の金融機関にサービスを提供したりと協業関係にある点が大きな特徴です。

国内市場に留まらず海外展開を視野に

 そうした背景からか、日本のFintechのもう1つの特徴が、日本のみで事業展開している点です。Fintech協会のベンチャー会員にあっても、英語で情報発信しているWebサイトを持っているのは49社にとどまります。

 日本は国内の市場規模が大きく、国内で十分収益を上げられることや、海外に出るには言語が大きな障壁になっていることも理由に挙げられるでしょう。

 とはいえ海外には、欧米やアジアで幅広く事業を展開しているFintech企業がたくさんあります。彼らと競い合い、より多くの人に利用してもらえるサービスに成長するためにも、日本のFintechには、もっと世界に目を向けてほしいと考えます。

貴志 優紀(きし・ゆうき)

Fintech協会理事。Plug and Play Japan Director)。2008年ドレスナー・クラインオート証券に新卒入社後、2009年にドイツ証券へ転職。金融商品のバリュエーション、決済などオペレーション業務に従事。2016年ケンブリッジ大学にMBA留学後、2018年5月よりPlug and Play JAPANに参画。Fintech部門のディレクターとしてFintechプログラム全般を担当。