• Column
  • これが本当のFintech最前線

2021年にFintechが加速する3つの理由【第6回】

貴志 優紀(Fintech協会理事/Plug and Play Japan Director)
2021年1月19日

理由2:分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)の台頭

 第2のキーワードは「分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)」です。DeFiとは、ブロックチェーン技術を使った非中央集権型の金融取引を指します。

 ブロックチェーン技術を用いた新しい金融は2020年頃から話題になっています。例えば、従来の証券取引所などを介さない「DEX(Decentralized Exchange:分散型取引所)」やレンディング(融資仲介サービス)、新たな資金調達手段のセキュリティトークン、法定通貨と連動する暗号資産であるステーブルコインなどです。

 DeFiは、取引所や金融機関が管理する中央集権型に対し、第三者を介さずに当事者間で取引できるため、余計な仲介料がかかりません。消費者にとってはサービス利用にかかる手数料が安くなることが最大のメリットになります。従来の金融システムのように国や中央銀行などの組織に依存しないため、国籍や居住地に関係なく、誰でもサービスにアクセス可能な点も魅力の1つです。

 世界14カ国の経営者と実務担当者を対象に米デロイトが2020年に実施した『グローバル・ブロックチェーンサーベイ』によれば、「ブロックチェーンが非常に重要で戦略的優先事項のトップ5に入っている」とする回答者の割合は55%に達しています。2年前から12ポイント上昇しており、ブロックチェーンに対する経営者の意識が高まっていることが伺えます。

 DeFiは、まだまだ黎明期にはありますが、2021年も前年に引き続き新たなサービスが生み出されるでしょう。ただ、DeFiは誰でも参加できるオープン型のシステムをうたっているだけに、多くのサービスはKYC(本人確認)を実施していません。現状は「何か問題が起こっても自己責任」というケースが多く、普及に合わせて、こうした問題への対処法も議論が進むでしょう。

理由3:金融以外を含む投資家向けサービスの進化

 2021年にFintechを促進させる第3の要因としては投資家向けサービスの進化が挙げられます。

 2020年はコロナ禍で株式相場が大きく変動したことや助成金を受けて手元資金が増えたことがきっかけになり、多くの人が資産運用を始めました。例えば米Robinhoodは、手数料が無料で気軽に取引できる点が受け、2020年5月にはミレニアル世代を中心に利用者数が2年前の2倍強にあたる1300万人にまで増やしています。

 日本でも投資初心者向けサービスの需要が拡大しています。ロボットアドバイザー(ロボアド)大手のWealthNaviは20年12月、「サービス開始から4年4カ月で運用資産が3200億円を超えた」と発表し、同月には東証マザーズ上場も果たしました。

 投資初心者向けのサービスは2021年も盛り上がるでしょう。Plug and Playの投資先の1つである米Koyfinは、個人投資家向けに使いやすいUI(User Interface)の分析ツールを提供しています。米Financial Gymや英GoHenryなど資産運用の教育プログラムを提供する企業も増えています。日本でもAB Cashが女性向けに資産運用をサポートするサービスを提供しています。

 さらに、これまでの株や為替、債券など従来の金融資産以外に投資する動きも広がりそうです。米Otisはアート作品を複数人が共同で投資・共有できるプラットフォームを運営しています。投資家は小口で投資できるほか、スマートフォン上で自分のアートのポートフォリオを確認できるなど、アート投資を身近なものとして体験できるようにしました。

 投資家の裾野を広げるサービスはほかにもあります。2017年創業の米Rally Rdは、有名人のサインやクラシックカー、おもちゃといったビンテージ品を取引するプラットフォームを運営しています。20年9月時点の利用者数は20万人、トランザクション数は前年比で倍増しているとしています。

 ほかにも、ヘッジファンドなどの機関投資家によって独占されてきた不動産やインフラに個人がオンラインで投資するための米YieldStreetなどが注目を集めています。同様のサービスは今後、増えていくでしょう。

貴志 優紀(きし・ゆうき)

Fintech協会理事。Plug and Play Japan Director)。2008年ドレスナー・クラインオート証券に新卒入社後、2009年にドイツ証券へ転職。金融商品のバリュエーション、決済などオペレーション業務に従事。2016年ケンブリッジ大学にMBA留学後、2018年5月よりPlug and Play JAPANに参画。Fintech部門のディレクターとしてFintechプログラム全般を担当。