• Column
  • ネットワークから見たDXの違和感

モノの自動化を強調するIoTの違和感【第5回】

能地 將博(日本アバイア ビジネスデベロップメントマネージャ)
2020年12月3日

コミュニケーションの要素がIoTには抜けている?

 ネットワークを少し広く解釈してみると、コミュニケーションもネットワークの一分野になります。例えば筆者が勤務する米アバイアの主な製品/サービスはコミュニケーションですが、ネットワークベンダーという位置づけで認知されています。そこで、コミュニケーションの観点からIoTを考えてみたいと思います。

 注目したいのは、システムにおけるデータ処理の部分です。先述したようにIoTのデータ処理の目的は自動化が強調されていますが、システムとしては人の介在も考えられます。そして、人がシステムに介在するためには、人が理解できる形での送受信、すなわちコミュニケーションが必要になります。

 例えば、あるInputを受けた、あるいは、ある条件に合致した際に、リアルタイムな意思決定を促すために送受信をしたり、プロセスの1パーツとして人力(人による作業)を組み込んだりするのです。

 リアルタイムの意思決定では、プロセスのワークフローの中に、人の判断を組み入れるアクションを追加します。登録した人(あるいはメンバー)に、メールやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、電話緊急ミーティングなどによって、ある事象が発動された情報とともに連絡します。

 AI(人工知能)による判断をシステムに組み込むことはできますが、あいまいな情報に基づく判断は、まだまだ人による判断が優っています。ワークフローでは、人の意思決定(レスポンス)を元に条件分岐させ、IoTの制御を決定することもできます。

 一方の人力使用の例としては、フィールドサービスエンジニアの派遣がわかりやすいでしょう。筆者が関わった製造業A社のコンタクトセンターの更改案件に、IoTをからめて提案すれば、こんな感じになるはずといった内容を挙げてみたいと思います。

 実際の事例は、サポート切れに伴う単純更改だったため、IoTは全く関係ありませんでした。ただ、この顧客が置かれている状況は、まさに「IoT+コミュニケーション」によって、かなりコスト削減ができる内容だと思われました。A社の状況は少々カスタマイズして説明します。

機器の不具合を検知したIoTシステムがコミュニケーションを取る

 A社の製品では、不具合が発生するとユーザーによる復旧方法が提示され、大抵の問題はユーザー自身が解決できるようになっています。それでも復旧できない場合のみ、コンタクトセンターオンサイトでのサポート依頼の電話がかかってきます。

 コンタクトセンターのオペレーターは、不具合の内容と、製品が表示している不具合番号を、顧客IDとともにヒヤリングします。特定の不具合番号を顧客が告げた場合には、ユーザー自身による解決は、ほぼ不可能なため、フィールドエンジニア(FE)を派遣することになります。

 FE派遣となればオペレーターは、顧客IDから顧客の住所を特定し、フィールドエンジニアのデータベースを参照して即時対応が可能かどうかを個別に確認します。FEを確保できれば再度、顧客に訪問時間を連絡します。A社コンタクトセンターへの全コールのうち、不具合コールは70%を占め、そのうちの50%がFE派遣が必要な特定の不具合番号を告げる内容でした。

 ここでのポイントは、70% × 50% = 35%のコールがFEの派遣を必要としている点です。つまり、ここを自動化してしまえば、かなりの業務改善が図れます。

 自動化のフローは、こうです。

(1)製品に不具合が発生し、特定の不具合番号が検知されれば、そのアラームを製品を監視しているIoTシステムに送信
(2)IoTシステムは機器IDから顧客IDを取得し、顧客IDをキーにフィールドエンジニア(FE)のデータベースを検索
(3-1)顧客住所近くで作業予定があるFE数人に対応可能かどうかをSMSで送信
(3-2)対応可能とするFEからの返信がなければ、セカンドベストなFEにSMSを送信
(4)対応可能なFEは予定訪問時刻をIoTシステムに返信
(5)IoTシステムが、エンジニア訪問予定時刻を顧客に自動音声で電話
(6)顧客が提案時間を了解すればFEの訪問を決定し、FEに指示
(7)FEが顧客を訪問し、製品を修理

 システムフローを単純化しているため、「この部分はこうしたほうがいい」といった点があるとは思いますが、全体の流れはこんな感じでしょう。(1)と(2)がIoT、(1)〜(6)がコミュニケーション、(7)が人力です。

 (1)の部分は、あえてIoTのセンサーにしなくてもいい気がします。ですが、顧客が電話で被疑内容を伝えるより、不具合番号とともに被疑内容のログを送信してくれたほうがFEにとってはイメージがつきやすく、より早期の復旧が可能になるでしょう。

 一般にコンタクトセンターの運営コストの70〜80%は人件費だと言われています。上記の自動化により、35% × 75% ≒ 26%前後のコスト削減が可能になります。運営コストの26%削減よりも、「IoT+コミュニケーション」によるシステム開発・運営費のコストのほうが低ければ、費用対効果は高くなります。単年ではコンタクトセンターの運用コストのほうが安くても、数年でブレークイーブンポイントを迎えられそうです。

緊急手術スタッフを招集する実例が米国にあった

 筆者が、上記の「IoT + コミュニケーション」の案を思いついたのには背景があります。アバイアの米国本社が、ある病院においてコミュニケーション部分のシステムを構築した事例が共有されていたのです。IoTとは全く関係がない事例ですが、その例では、エンジニアの派遣ではなく、「緊急時の手術スタッフを対象に適切な人を探し出し現場に向かわせる」という内容でした。

 A社を想定した例は、コンタクトセンターにIoTの要素を組み込んだらこうなるといった色合いが濃かったかもしれません。逆に、IoTに人とのコミュニケーション要素を付加すれば、モノの自動化だけに留まらないシステムが構築できる可能性が高まります。

 IoTもコミュニケーションも既知の技術です。ですが既知の技術を組み合わせることで、新たな価値が生まれる可能性もあります。

能地 將博(のうち・まさひろ)

日本アバイア パートナー営業本部 ビジネスデベロップメントマネージャ。早稲田大学卒業後、大手独立系SI企業に入社。その後、外資系IT企業のプロダクトマネージャ、マーケティングマネージャを歴任し、2008年より日本アバイアに勤務