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AIのネットワーク適用が“これから”と言う違和感【第6回】

人と人をつなぐコンタクトセンターでは実用が進む

能地 將博(日本アバイア ビジネスデベロップメントマネージャ)
2021年1月7日

前回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈で頻繁に登場するキーワードである「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」について、「モノの自動化」を強調することへ違和感を述べました。今回は、そのIoTと並んで登場するAI(人工知能)について、ネットワークの観点から見た違和感を説明したいと思います。

 『情報通信白書』(総務省、令和元年版)によると、ネットワーク制御などへのAI(人工知能)適用の研究が進んでいます。「交通、医療、製造業等様々な分野で新たなサービスが創設され、そのサービス要件が多様化するなか、ネットワークがこれら要件に対応し基盤となる。そのために、ネットワーク制御への AIの活用とトラフィックの状況分析の研究を行う」とのことです。

 スマートフォンやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)機器の急速な普及に伴い、ネットワークを流れるトラフィック量が増大しているだけに、AIは、その分析には適しているのでしょう。

 ビジネスの現場ではどうでしょう。例によって、業界最大手の米シスコシステムズの事例を調べてみました。同社のAI関連ページには、「“インフラをよりインテリジェント、効率的に”するためにAIを活用する」と書かれています。総務省同様の(1)制御と分析のほか、(2)データ収集と保管、(3)音声認識などが挙げられています。

 例えば(1)制御と分析では、「ML(機械学習)によるパターンの分類、分析により、ネットワークトラブル発見、ネットワーク最適化制御を行う」とあります。さらに発展させ、「セキュリティブリーチ(セキュリティ違反)を発見、防御する」という取り組みも始まっているとのことです。

 (2)データ収集と保管は、MLの精度を高めるためには複数箇所から大量のデータを収集する必要があり、そのためのデータの最適な収集・保管・相互接続をサポートするスキームを提供するというものです。

 (3)音声認識は、ネットワークインフラというより、シスコのWeb会議システムとの連携で説明されていました。具体的には、会議室の空き状況を音声で確認し、AIが音声で回答。そのまま予約するという使い方が紹介されています。

 ネットワークの王道である「ネットワークインフラ」の文脈で語れば、AIは「制御と分析」で活用されようとしていることがわかります。ですが、ネットワークの範囲を拡げ、コンタクトセンター(コールセンターと同義)の事例をみれば、実はAI活用はすでに身近な技術として使われています。

顧客を“最適な”エージェントにつなぐことが重要

 まずは、コンタクトセンターの仕組みを概観し、そのうえでコンタクトセンター事業者が現在、注力している課題を説明します。これらを理解すれば、AI活用が推進される理由や背景が、よりわかると思うからです。

 コンタクトセンターの基本は、不特定の顧客からの質問や要望にオペレーターまたはエージェントが対応するコミュニケーションです。コミュニケーション手段のメインは、まだまだ電話ですが、メールやチャット等からの質問も増加しています。

 いずれの手段からのコンタクトであれ、最適なエージェントに効率的にルーティング(担当者を決めて転送)するのがキモになります。ここで“最適なエージェント”という意味は深く、顧客の質問に的確に対応できるという顧客視点に加え、コンタクトセンターの運用上、”最適な割り振り”という意味も含まれています。

 どういうことかというと、すべての質問に回答できるベテランにばかりルーティングしてしまうと、その方が疲弊してしまいます。一方、新人さんにルーティングしてしまうと、回答に時間がかかるばかりで顧客の課題を解決できないかもしれません。

 そのため、ルーティングでは、しばらく電話対応をしていない人につなぐのが基本ではありますが、ベテランの人には、より高度な質問が来た時に対応してもらえるよう「XXのケースにしかルーティングしない」など、色々なアルゴリズムやルールを設定し“最適なルーティング”を実施するのです。

 顧客の立場で、企業のコンタクトセンターに電話をかけたことがある方も多いことでしょう。その際、明らかに音声テープによる音声で応対されたことがあると思います。「請求は1、故障は2を選択下さい」などです。

 ここには「IVR(Interactive Voice Response)」というシステムが使われています。最初の段階で質問を振り分け、最適なエージェントにつなぐためです。IVRが進化すると単純な質問には人を介さずに回答させるようなシステム連携がなされます。銀行の口座番号をプッシュ回線で入力すると残高が機械音で読み上げられるなどです。

 IVRとWeb、データベースを接続した仕組みは、「セルフサービス(顧客が自身で解決)」型機能の提供へと発展しています(詳しくは後述します)。