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モノの自動化を強調するIoTの違和感【第5回】

能地 將博(日本アバイア ビジネスデベロップメントマネージャ)
2020年12月3日

デジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈で頻繁に登場するキーワードの1つが「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」です。そのIoTのメリットとしては「モノにセンサーを取り付け、そのセンサーが取得したデータを活用できる」といったことが挙げられています。そんなIoTについて、ネットワークの観点から見た違和感を説明したいと思います。

 「IoT」は「Internet of Things」の略称で、日本では「モノのインターネット」と訳されることが多いのは皆さんもご存知の通りです。そしてIoTの身近な例としてよく説明されるものにスマートホームがあります。「IoTハウス」とも呼ばれるほどです。

 スマートホームは、家にある各種の機器をスマートフォンで操作できるというものです。玄関ドアを解錠したり、室内灯を点灯したり、エアコンのオン/オフを操作したりが可能になります。

 一方、ビジネス領域では製造業のIoTが、よく説明されています。工場の設備にセンサーを取り付け、そこから上がってくる数値や情報が事前に設定した、しきい値を超えたら、ある動作をする、あるいはアラートなどで知らせるといったケースがよく挙げられています。

 数年前のことですが、筆者がテレビで見て非常に感銘を受けたのが、建設機械を対象にしたコマツのIoTです。全世界に展開する40万台の建機にセンサーを設置し、ネットワークで常時、監視遠隔し制御する仕組みで、GPS(全地球測位システム)を使って建機1台1台の所在地を認識し、盗難や暴走などのトラブルが発生した場合には、遠隔から即時にエンジンを停止させるというものです。

 このシステムを構築した理由が、「高価な建機の盗難が中国などの国々で頻発しており、その対策から構築した」とのことでした。地球規模に張り巡らされたネットワークで実現された大規模なIoTの実例です。今では機能が、さらに加わっていることでしょう。

ネットワークはIoTの“縁の下の力持ち”的な要素

 身近な家庭からグローバルな企業規模までで使われるIoTについて、その構成要素を改めて確認してみましょう。自身でIoTを活用しようと思った場合に役立つはずです。

構成要素1:モノ

 モノには、電子機器やデバイスがあります。それぞれにセンサーや通信、制御の機能を取り付けることになります。センサーを独立した構成要素とする資料も見かけますが、センサーだけではIoTは完結しません。モノに設置する(内蔵する)センサーと通信、制御機能がセットで必要になります。

 すなわち、センサーでON/OFFの状態、温度などのステータスを確認し、それを同一拠点内やクラウド上にあるサーバーに送信、あるいは携帯電話に送信。後述するシステムからのコマンド(命令)を受信し、制御ができて始めてモノがIoTの“モノ”として機能します。

構成要素2:通信

 モノのステータスやシステムからのコマンドを流すためのIP(Internet Protocol)プラットフォームです。ネットワークインタフェースで言えば、家庭内ならWi-FiやBluetooth、工場やオフィスならWi-FiやLANになります。

 もちろん拠点間をつなぐ場合は、バックボーンとしてのInternet、その他拠点間ネットワークも構成要素になります。携帯と携帯などのP2P(ピア・ツー・ピア)も選択肢になります。低消費電力の通信規格LPWA(Low Power Wide Area)に沿ったネットワークもあります。これらのうち、Bluetooth以外は、IPを通信できるインフラが必要になります。

構成要素3:システム

 システムは、スマホ用のアプリケーションだったり、クラウド上のシステムだったり、それと連携するデータベースを含め、目的に応じて作成されたプログラムを意味します。

 システムの中の処理フローでは、「Input(モノからの情報) → システム処理(フロー処理) → Output(モノの制御コマンド等)」が定義されています。

 システム処理(フロー処理)では、Input情報を受信後、モニタリング、データ蓄積、しきい値による条件処理などのルールと、その結果に基づくアクションやコマンドが定義されています。それがOutput情報として、モノを制御する内容としての送信であったり、他システムへの送信だったりするわけです。

「Input(モノAの情報) → システム処理 → Output(モノAへの制御コマンド)」が、モノAが実際に制御される裏側です。複雑なシステムの場合、「Input(モノAの情報) → システム処理 → 他システム処理 x N → Output(モノZへの制御コマンド)」と、中のシステム処理が複雑にはなりますが、仕組みは同じです。複数のモノ制御をしたい場合は、Outputが複数になるだけです。

 先程の例に当てはめてみれば、それぞれの構成要素は表1のようになります。

表1:IoTの代表例における構成要素
IoTの例スマートホームコマツのIoT建機
モノエアコン建機
通信BluetoothInternet
システムスマホ稼働管理システム「KOMTRAX」

 スマートホームとコマツのIoT建機では当然、制御できる内容やシステムの複雑さは全く異なるでしょうが、構成要素でいえば、通信部分がBluetoothかInternetかの違いだけです。

 とはいえ、実際には、通信プラットフォームの違い以上に、どれだけ正しく、確実に送受信できるかという“通信の質”が異なっています。

 例えばネットワーク業界最大手の米Cisco SystemsのIoT紹介ページでは、「セキュリティ、ハイスピード、タフな使用に耐えるソリューション」として、Ethernetスイッチやルーターを紹介しています。結局のところ、ネットワークの観点でIoTを語ろうとしても、通信部分のインフラデバイスでしか語れないのです。

 しかし、通信の質の追求が、信頼性あるIoTシステムの要になることも事実です。ネットワークは“縁の下の力持ち”としてIoTに関わっているのです。