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- ネットワークから見たDXの違和感
音声対話の基本である「電話」を見直さない違和感【第7回】
リモートワークの広がりと相まって、それ以前からの働き方改革を強調する声が強まっています。そこではビデオ会議ツールの話題が中心ですが、先頃、取引先との会話でPBX(Private Branch eXchange:構内交換機)の重要性を再認識する機会がありました。PBXは会社の電話を司っているシステムです。「今さら電話?」と思われたかもしれませんが、それはデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む姿勢としては疑問符が付くかもかもしれません。
筆者は毎週、パートナー企業の方と定例のオンラインミーティングを開いています。最近も、パートナー企業のA社との定例ミーティングを持ち、検討課題が終わり雑談タイムになったとき、先方がふと話されました。
「御社の電話を5年前に導入しておいて本当によかったです。おかげでテレワークにすんなり移行できています」
A社では緊急事態宣言が再発出されて以後、オフィスへの出勤は禁止になり、全社員のほとんどがテレワーク勤務になっています。
同社の主要事業はIT関連のハードウェア/ソフトウェアのディストリビューション(卸売り)です。決して小さな会社ではなく、約500人いる社員のほとんどがテレワークを実施できているのであれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)に上手く取り組めていると言えるのではないでしょうか。
電話連絡の善し悪しでライバル社の仕事が舞い込む
その担当者によれば、A社のライバル企業であるB社は、テレワークに上手く移行できておらず、緊急事態宣言下も電話番のために出社が続いています。それでも担当者との電話連絡がスムーズにいかず、B社が得意とする仕事がA社に回ってくることもあるとのことでした。
A社とB社の電話システムでは具体的に何が違うのでしょうか。A社の電話システムについは、導入時に少々関わったので内容を知っています。それ以外のシステムについては、A社は自社をモデルケースにしたテレワーク関連サービスとして公表しています。守秘義務に反しない範囲で、A社の電話システムを紹介しましょう。
A社の電話システム:5年前にIP化を完了
A社は5年前、電話システムの更改時にIP(Internet Protocol)化を実施しています。つまり、IP-PBX(Private Branch eXchange:構内交換機)を使った電話システムに刷新したのです。
IP化により、内勤者はPCにインストールしたソフトフォンを、外勤者は会社支給のスマートフォンにIP-PBXのクライアントアプリケーションをインストールして受発信するようになりました。一部の社員を除き、固定電話の撤廃です。
同時に、SBC(Session Boarder Controller)を設置し、会社の電話をどこからでも受発信できるようにしました。SBCは、インターネットでVoIP(Voice over IP)通信を可能にするためのゲートウェイです。不正アクセスのブロックと暗号化を同時に実行するため、インターネット経由でもセキュアな通話が可能です。
さらに運用面では、不特定多数の電話を扱うインサイドセールス部門以外では、グループ代表番号方式を止め、個人のダイヤルイン番号方式による受発信に切り替えました。
導入時には少々トラブルもありましたが、すでに5年が経過。2019年からテレワークの全社運用テストも開始していました。IP化を図っていたことで、2020年3月の緊急事態宣言時には在宅で業務を遂行するテレワークにスムーズに移行できたようです。そして現在も、内勤者はソフトフォン、外勤者はスマホアプリで業務を遂行しているのです。
B社の電話システム:非IP、グループ代表番号で運用?
B社の電話システムについて筆者は当然のことながら全く知りません。A社の担当者から聞いた話をもとに類推してみます。
「電話番のために出社」ということから、システムはIP化されていない、あるいはIP化されていたとしても、リモートからはアクセスできない状況だと考えられます。
またダイヤルイン番号方式で運用していれば、「電話番」という単語は出てこないはずなので、グループ代表番号方式で運用していると考えられます。かなりレガシーな電話システムであり、レガシーな運用のようです。