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- 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方
DXに不可欠な共創にスピードを、変革にスケールを【第1回】
IBM Garageのコンセプトと7つのコンポーネント
多くの活用事例を持つIBM Garageが登場したのは2016年のこと。以来、市場や環境に合わせてコンセプトの範囲や手法を変えてきた。COVID-19拡大以後は、多くの社員が強制的に出社できない状況にあっても、イノベーション創出やDXに継続して取り組めるよう、ロケーションフリーで、リモートからもセキュアな環境で活動を支援できるように整備されている。
IBM Garageは、イノベーション創出やDXのためのアプローチだ。IBMが提唱する「コグニティブ・エンタープライズ」を実現するための手法とも言える(図1)。
コグニティブ・エンタープライズとは「新しいビジネスモデルを実現する企業」という意味だ。その実現に向けては、自社以外のパートナー企業などとエコシステムを形成し、リスクを最小限に抑えながら、実験や検証を繰り返しながらスケールさせていく仕組みが必要となる。
具体的には、異業種間連携のためのプラットフォームや、意思決定やフロントエンド/バックエンド業務最適化のためのインテリジェントワークフロー、AIやIoT(モノのインターネット)など最新テクノロジーの活用、アプリケーション、ハイブリッドクラウド、そして、これらを支える文化やスキル、新しい仕事のやり方などである(図1の左)。
これらを支援するためにIBM Garageは7つのコンポーネントで構成されている(図1の右)。まずベースとなる流れとして以下がある。取り組むべき領域を特定する「Discover」から始まり、ビジョン策定やデザイン思考など活用したアイデア創出とプロトタイプ作成の「Envision」、Agile開発や分析モデルを構築する「Develop」と、スケール/運用の「Operate」だ。
こういった新しい取り組みのために必要な環境として、イノベーション文化を醸成する「Culture」、AIやデータサイエンスを適用する「Reason」、顧客やユーザーからだけでなく、マネージメントプロセスからの学習である「Learn」がある。
各コンポーネントについては次回以降、詳しく説明していくが、その中心に「Culture」があることは留意しておいていただきたい。今回は、IBM Garageの特徴の1つである、これらコンポーネントを活用するための方法論とガバナンスについて説明する。
方法論に沿って3つのフェーズを実行
IBM Garageでは、企業のイノベーション創出やDXにむけて、IBM社内の種々のアセットを活用するだけでなく、ビジネスパートナーや大学、スタートアップともエコシステムを形成しながら必要に応じて協働することが重要になる。これを実行・支援するための方法論が「IBM Garage Methodology」だ。
IBM Garage Methodologyでは、(1)Co-Create(共に創る)、(2)Co-Execute(共に実行する)、(3)Co-Operate(共に運用する)の3つの流れでイノベーション創出/DXを支援する(図2)。
Co-Create(共に創る)
取り組むべき領域を定め、バックキャスティングやデザイン思考などを活用してアイデアを創出する。そして、プロトタイピングを通じた顧客/ユーザー検証を実施し、次のフェーズに進むべき価値があるかどうかを判断する。
こうした取り組みを継続的に実施していくためには、カルチャー変革も避けられない。従来のように本社や自社の組織に閉じた検討ではなく、社内外の多様な専門性を持つ人材が集まるのが前提だ。仮説検証を素早く繰り返していくためのプロセスや評価制度、場の整備も含まれる。
Co-Execute(共に実行する)
Co-Createである程度検証されたアイデアを基に、「MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)」を実装する。ここでのポイントはアジャイル開発や、それを支える各種ツール、クラウド環境などのプラットフォームである。リモート環境での開発やユーザ検証に必要な環境、ツールも重要になる。
実装するのは必ずしもアプリケーション開発に留まらない。テーマやアイデアに応じて、AIやデータサイエンスを適用するプロジェクトもある。ビジネス課題をAIやデータサイエンスの文脈に置き換え、最適な技術を選択する。短いサイクルで多数のモデルを適用しながら実験を繰り返すことで最適化を図り、インサイト(洞察)を導出する。
Co-Operate(共に運用する)
MVPのスケール、具体的には追加機能の開発、他事業部やグローバルへの展開などを支援する。他にも、顧客やユーザーからのフィードバックのモニタリングと改善といった「DevSecOps(セキュリティを考慮した開発と運用の融合」の要素も含む。
アプリケーションやプラットフォームの維持管理はIBMに任せ、より注力したい領域にリソースを集中させるという選択肢もある。