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  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

DXに不可欠な共創にスピードを、変革にスケールを【第1回】

木村 幸太(日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業本部 IBM Garage事業部 部長)
2020年9月23日

「IBM Garage」は「Startup speed. Enterprise scale」というミッションを掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実行に必要なプラットフォームやエコシステム、人材やテクノロジー、トレーニングなどを提供するエンド・ツー・エンドのサービスである。今回は、IBM Garageのコンセプトなど全体像を説明する。

 経済産業省が『DXレポート』を2018年9月に発表して以来、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に対する意識は高まった。そこに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けて、「これから数年で起ころうとしていたDXを数カ月で対応しなくてはいけなくなった」と、否応なくデジタル化を迫られている企業は少なくない。

 Withコロナでの不確かな状況が続く中、これを機会と捉えてチャレンジする企業と、しない企業では大きな差がつく。だが、そもそもどうやって“機会“を捉え、取り組む価値があるのかどうかを検証し、既存ビジネスがある中で社内組織や人を動かしていくのか−−。これらの難しさを感じている企業も増えている。

 そうした企業に向けてIBMが提供するサービスが「IBM Garage」だ。「Startup speed. Enterprise scale(スタートアップ企業の速さと、大手企業のスケール感」をミッションに掲げ、企業におけるイノベーションやDXをスピーディーに、かつスケールできるように支援する。そのために必要なプラットフォームやエコシステムから、人材やテクノロジー、トレーニングまでを提供する。

グローバルでは500社以上が利用

 IBM Garageは、グローバルには500社以上が、それぞれのDXのために利用している。Garageの詳細を説明する前に、その活用事例を国内外から1つずつ紹介する。

米スナック大手Frito-Layがワークフローを変革

 海外事例の1つに、米スナック菓子メーカー大手のFrito-Layがある。同社の商品は、北米では毎日2000万食が消費され、30万におよぶ小売店が取り扱っている。各小売店に対し、2万5000人の従業員が多種多様な商品の中から適切な商品を選び、適切なタイミングで納入する仕組みが求められていた。

 Frito-Layは、IBMの「エンタープライズ・デザイン思考」を活用し、約1500時間のインタビューと現地視察を実施。課題を洗い出し、解決策を優先順位づけすることで経営陣の意思決定を加速させ、AI(人工知能)が商品を推奨する小売店向け発注プラットフォーム「Snacks to You」や、配送を可視化・効率化するアプリケーション「Sales Hub」などを開発した。

 現在も複数の案件別の実行チームである「Squad(スクワッド)」を立ち上げ、流通から配送、店舗での販売まで一連のワークフロー変革を続けている。

カクイチ、スマート農業用の統合基盤を開発

 国内事例には、農業用ナノバブル発生装置を提供するカクイチの取り組みがある。農業では、農業従事者の高齢化とともに農業従事者の減少が課題になっている。カクイチが市場を維持・拡大するためには、農作物の成長促進や収穫量、秀品率を高め、農家の生産性向上、および若者が関心を持つようなノウハウや農家同士の情報共有のための取り組みが求められていた。

 そこでカクイチは、農園やビニールハウスに取り付けたセンサーで照度、湿度、気温、土壌の水分、地中温などのデータを収集・蓄積し、AIで時系列の因果関係を分析できる統合プラットフォームを構築した。

 プラットフォームでの分析に基づき、最適な散水タイミングやバルブ設定を見える化し、それに沿ってナノバブルウォーターを散水することで農作物の収穫量や品質の向上を可能にした。農業従事者に的確なアドバイスをするために、分析結果を表示・管理できるスマホアプリも構築した。

 この取り組みでは、カクイチの農業のスペシャリストとIBMの専門家が一体になって行動。そのために、ユーザー体験からアイデア創出、実証実験を踏まえた本番開発までにIBM Garageのアプローチを採用した。