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  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

常に最高を目指す組織カルチャーを育むための実践ポイント(前編)【第3回】

木村 幸太、黒木 昭博、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2020年11月18日

第2回では、企業が環境変化に対し、しなやかで、かつ俊敏な動きができるようになるために実現すべきことと、そのための変革の視点を紹介した。今回は、活動の初期段階にフォーカスし、これらの視点から直面しやすい課題と、それに対する実践ポイントを前後編に分けて紹介する。

 実践ポイントを紹介する前に、第2回の最後に出した「ミニ演習」の選択肢について触れておこう。ミニ演習では、架空のシチュエーションを設定し「あなたならどう考えるか」として選択式を挙げた。

 いずれの選択肢も必ずしも間違いというわけではないが、カルチャー変革という視点からは左側の要素が、より重要になる。その理由を、前回に紹介したカルチャー変革における4つの視点、すなわち(1)人、(2)組織、(3)実践作法、(4)協働する場、のそれぞれに沿って具体的に解説するとともに、実践ポイントを挙げる。

 なお前編では(1)人と(2)組織の視点を紹介し、(3)実践作法と(4)協働する場については後編で紹介する。

(1)人の視点:活動を軌道に乗せるための共通理解

 イノベーション活動は試行錯誤の連続だ。だが、それに適したカルチャーが未確立の場合、その活動が頓挫してしまう。これらはスタート時から問題を抱えていることが少なくない。例えば、経営陣の理解が限定的なまま見切り発車しているケースや、技術的手段が先行しているケースなどだ。スタート時の共通理解の形成は重要な課題になる。

 このような課題に直面した場合、あなたなら、どんなアクションを起こすか考えてみてほしい。

アクションa :指標を設定し、役員を交えて実践してみる
アクションb :先進事例を調査する
アクションc :他役員への根回しを徹底する

 IBM Garageでは、アクションaを重視する。まずは身を持って実践することがカルチャー変革には何より重要だからだ。アクションbとアクションcは選択肢としてはあり得るが、机上論に終わってしまい不十分だといえる。

 アクションaでは、経営陣とコアメンバーに対し、トレーニングを積むことをお勧めしている。役員が率先して実践すると、チームだけでなく関連する部門の巻き込みが容易になるだけでなく全社的な機運を高めることにつながる。

 そこでの指標は、いわゆるKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)やOKR(Objectives and Key Results:達成目標と主な成果)と呼ばれるものだ。目指すカルチャーに対し、実践する内容とつながる指標を設定する。

実践ポイント1-1:トレーニングと指標を設定し実際にアクションを起こす

 変革スタートの具体的な取り組みとしては「ブートキャンプ」が挙げられる。ブートキャンプは元々、軍の新兵が慣れ親しんだ環境から離れて集中的に訓練するという意味だ。

 IBM Garageのブートキャンプでは、数日間かけて実在したクライアントの問題を用いて、課題の仮説を立ててアイデアを出し、その場で検証する。実際にオフィスの外に出て、近しい利用者にぶつけ、そのフィードバックをもとに課題やアイデアを修正することが大きな特徴である(写真1)。

写真1:ブートキャンプのイメージ。アイデアを利用者にぶつけ、フィードバックをもとに課題や仮説を修正する

 とりわけ変革を主導する役員が率先することが重要だ。ある企業では、調査会社から市場動向レポートを購入し、それを使った社内横断の勉強会を開いてはいたものの実践につながっていなかった。そこで社内変革の担当役員を交え、ブートキャンプを実施することで、新たな習慣への理解を深め、トップ主導による実践に取り組み始めている。

 指標は、狙いやフェーズによっても変わるが、3つの側面を考慮する。(1)ビジネス(収益性、成長性など)、(2)ターゲットとなる利用者(登録数、サインアップ数、コンバージョン率など)、(3)開発・運用(サイクルタイム、SLA:サービスレベル契約など)の3つである。

 活動初期では、行動指標として利用者へのインタビューなどの実地活動を伴う仮説検証サイクルを何度回したかを重視するのも1つの手だ。あるチームでは、「オポチュニティ・キャンバス」などのビジネスアイデアを整理するフレームワークに記載した仮説を「一定期間内にどれくらいの人数に対して検証するか」という定量目標を決め、仮説の修正を繰り返すことを徹底している。

 いずれにしても、こうした指標をもとに活動を見直し軌道に乗せていく。