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  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

Discover:真に取り組むべき領域を発見する【第5回】

木村 幸太、黒木 昭博、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2020年12月23日

アクティビティ2:“Why”に焦点をあててビジネス目標を設定する

 取り組むべき領域が明らかになったら、ビジネス目標を定義する。ビジネス目標の設定では、企業としてのミッションやビジョンをはじめ、全社戦略、個別の事業戦略を考慮する必要がある。だが何よりも重要なのは、「そもそも、なぜ自社として取り組むのか」という”Why”に焦点を当てることだ。

 この”Why”が明確に定義されないと、いわゆる“やらされ感”が生じたり、実行を担う現場のスタッフには響かないどころか、活動が何らかの壁にぶつかった時に拠り所がない状態になってしまったりする。

 また目標は、それが達成可能かどうかという観点だけでなく、企業として、またそれに取り組む一社員として“自分ごと”として取り組めるものにすることも重要だ。そのためには、トップだけでなく現場スタッフも巻き込んで実施することがポイントの1つである。

 その上で、何を目標とするかを設定する。その記載の粒度は、対象とするビジネス領域の、どのセグメントに対し、どのような課題を解決するのか、またそれは、どのようなビジネスインパクトがあるのかを中心に記載する。IBM Garageでは図2のような「ビジネス・オポチュニティ・ステートメント」として言語化する。

図2:ビジネス・オポチュニティ・ステートメントの例

 ビジネス・オポチュニティ・ステートメントの時点では、ターゲットになる顧客候補を詳細なレベルまで落とし込む必要はない。例えば、「病院の外来患者」や「病院に勤務する医師」などの大まかな顧客層レベルで構わない。具体化は後続するコンポーネント「Envision」で取り組む。

 ただし、この段階で、目標の達成状況を計測するためのKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)やOKR(Objective and Key Results:達成目標 と主要成果)を明確にする。

 とりわけ、新規事業のような試行錯誤を伴う場合は、コミュニケーションや活動の生産性を高めることを狙いとしたOKRが適している。自社で使用している従来の売上高や稼働目標では評価が上手くできないためである。

アクティビティ3:活動を加速させる組織の役割を定義する

 Discover以降を見据えて活動を加速させていくためには、どのような組織体制で取り組むのかという役割定義が重要になる。

 プロジェクト推進にあっては、活動のスピード感に欠けてしまったり、現場に過度に依存し組織的に取り組めていなかったりというケースが見られる。IBM Garageでは、「Speed-to-Value」という考え方のもと、以下の3つの体制・役割を定義する。これらは、スピーディーに価値を実現するために必要な体制構築、投資、活動支援を迅速に行える環境を作るのが目的だ。

役割1 :実際に推進を担うチームに関するものである。このチームをIBM Garageでは「スクワッド(Squad)」と呼ぶ。目標に対して、現状どのようなメンバーがいるのかを踏まえて役割を設定する。

 主な役割には、ビジネス企画・顧客開拓を担当する「ハスラー」、プロダクトのUI(User Interface)や全体のUX(User Experience)などのデザイン全般を担当する「ヒップスター」、コーディングやエンジニアリングといったプロダクト開発を担う「ハッカー」などがある。これら3つの役割は最低限押さえるとよい。

 その中で、プロダクトオーナーや、スクラムマスター、デザイナー、コンサルタント、デベロッパー、データサイエンティスト、アーキテクト、SME(Subject Matter Expert:法務や知財などの特定の専門家)などといったより具体的な役割を決めていく。

役割2 :推進チームが連続的に試行錯誤を取り組むことを支援するイノベーションマネジメントを担う機関である。このチームを「Garage Board」と呼ぶ。具体的な役割としては全体の計画や投資対効果を検討し、自社が得意でない領域や欠けているケイパビリティに関しては、人材採用や外部パートナーとの連携を考える。

 また、Garage Boardは、活動推進の中で見えてきた制約や障害を取り除くことやプロジェクト関係者以外に対して、取り組み内容をストーリーとして伝え、全社的な機運を高めることも必要になる。

役割3 :予算の確保と執行の判断を担う機関である。これは「Investment Board」と呼び、CFO(最高財務責任者)をはじめとする経営陣が予算を持ち、執行の判断を下すことが役割になる。