• Column
  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

Discover:真に取り組むべき領域を発見する【第5回】

木村 幸太、黒木 昭博、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2020年12月23日

前回までは、IBM Garageの構成要素の根幹であり、企業変革の鍵となる「Culture(文化)」の確立について説明した。第5回と第6回では、IBM Garageのコンポーネントの1つである「Discover」について紹介する。Discoverは、「Co-Create(共に創る)フェーズ」に位置し、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)において取り組むべき領域を特定する取り組みである。

 IBM Garageのコンポーネントの1つである「Discover」は、プロジェクトとして取り組むべき領域を発見し、課題を掘下げるための活動を指している。どの領域の何を、なぜ変えるのかといったことを定義しないまま、アイデアや導入するソリューションばかりを検討しても、効果は限定的になってしまうからだ。

 同時に、取り組むべき領域の発見は、具体的な共通目標の設定や、その達成に必要な体制およびリソースを明らかにすることの助けにもなる。

 昨今のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みの本格化や「デジタル庁」の創設など、日本全体でデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれている。取り組むべき領域の特定は一企業にとって、より一層重要性を増している。

3つのアクティビティで領域を発見する

 Discoverは、具体的には3つのアクティビティから構成される。(1)ビジネス領域の特定、(2)ビジネス目標の定義、(3)推進組織の役割定義だ。これら3つが、どれだけ一貫性を保っているかが重要になる。それぞれの概要をみていこう。

アクティビティ1:ビジネス領域を特定する

 ビジネス領域の特定とは、提供する価値を具体化するうえで、有望領域の抽出・絞り込みを指す。その実行に向けては、いくつかのアプローチがあり、その中から最適なアプローチを自社の状況に合わせて選択する必要がある(図1)。代表的なものをいくつか紹介する。

図1:ビジネス領域を特定するためのアプローチの例

アプローチ1:バックキャスティング

 現在から将来におこり得る変化を洞察し、戦略的に取り組むべき領域を定めるアプローチである。不確実性の高い市場環境において、変化をもたらす可能性のあるファクターを明らかにし、市場がどのように変わるかを見出し、自社としてどう取り組みたいかを検討する。目先の問題領域ではなく、将来から逆算することで対象領域を明らかにする。

アプローチ2:事業ポートフォリオ

 対象市場と自社リソースの2軸で考えるアプローチである。対象市場は、既存市場、隣接市場、新規市場に分ける。リソースは、自社の既存リソース、既存リソース+新規育成・構築、既存リソース+外部リソースに分ける。そのうえでマトリクスにして考える。

 既存市場との距離感と新たなリソース獲得という点で、自社で取り組むのか、あるいは外部との連携も視野に入れた検討ができる。

アプローチ3:コンポーネント・ビジネス・モデル(CBM)

 企業活動をサービスのコンポーネント(業務)として可視化するアプローチである。各コンポーネントを戦略策定、業務遂行、実行管理のマネジメントレベルに分ける。事業戦略と整合させ、期待されるインパクトを考慮して絞り込むことができる。

アプローチ4:バリュー・ストリーミング・マッピング

 個別具体のプロセスを分解し、ボトルネックを発見するアプローチである。現状と理想のギャップから改善の余地を定量的に発見する。

 これらアプローチのうち、バックキャスティングは市場レベルの検討になり、バリュー・ストリーミング・マッピングは業務レベルの検討になる。それぞれの粒度は異なるが、取り組むべき領域の有力候補が見つかれば、一度フィールドワークに取り組むことをお勧めする。机上論だけではなく、現実を理解することで次のビジネス目標の具体化につながるからだ。