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  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

Learn:利用者とプロセスから学び、より良い意思決定を行う【第9回】

木村 幸太、黒木 昭博、蛭田 雄一、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2021年4月23日

プロセスからの学習

 第7回の「Envision」のパートで「プレイバック」を紹介した。プロジェクトメンバー、ステークホルダー、時には実際の利用者を巻き込んだ活動の振り返りである。プレイバックは、チームのパフォーマンスを高めることに役立つ。共通認識が取れているかどうかを確認できるため、活動を前進させるうえでも有効だ。

 プレイバックは、プロジェクトの様々な場面で実施する。例えば、ペルソナを定義するワークショップが終了したとき、MVPを利用者に提供したときなどである。開催形式は1対1のときもあれば、推進するチーム単位やイノベーションマネジメントチーム(Garage Board)と共同で実施することもある。

 これまでの経験では、定期的に設定するケースが多く、参加者全員からフィードバックを得られるように十分な時間を確保するように努めている。では、プレイバックにおいては何を共有するのがよいだろうか。

アクションa :結果として達成したことを共有する
アクションb :上手くいったこと、上手くいかなかったこと、その要因を共有する
アクションc :プロジェクト前とプロジェクト後の印象を共有する

 IBM Garageでは、アクションbで進める。技術や仕様に関わることではなく、利用者に良い体験を提供するために何が必要かという観点で実施するのが効果的である。

実践ポイント:共有に留めるのではなく、タスクにまで落とし込む

 プレイバックを実施する際のフレームワークは様々だが、次の3つの観点から振り返るとやりやすい。開始前にまず次の3つの枠を用意する。

枠1 :上手くいっていることや改善したこと
枠2 :問題となっていることやメンバーのストレスになっていること
枠3 :メンバーが不確かに感じていることや検討が必要なこと

 これら3つの枠が準備できたら、以下のステップで実施する。

ステップ1 :各自でその枠にそって付箋に書き込む「意見出し」を行う
ステップ2 :どのような意図でアクションを起こし、何がなぜ起きたのか、何を学んだのかをストーリーとして簡潔に「共有」する
ステップ3 :近い意味合いのものを「グループ化」する
ステップ4 :更なる議論が必要と思うものに対して「投票」する
ステップ5 :投票が完了したら、得票数が最も多いものから順に「振り返り」を進める

図2:プレイバック(振り返り)のフレームワークと実施例

 ここで大事なのは、振り返って終わりではなく、次のアクション項目を決定することだ。上手くいかなかったことに対して何を変更するのかや、試したい新たなアイデアを明確にし、特定メンバーに割り振れるタスクに落とし込む。

 各タスクへの対応状況は、メンバー全員が見ることができるホワイトボードなどに掲示しておくとアクションを起こしやすい。

 こうしたプレイバックのためには、安心して何でも意見を言える環境づくりが欠かせない。誰かに責められるかもしれないという恐怖感があっては、率直な意見を言いづらく、問題解決への協力も限定的になりかねない。

 そのために、コーヒーやアルコールでリラックスできる雰囲気作りをすることもある。推進するチームのパフォーマンス向上につながることであれば、お菓子や働く環境をより快適にするために冷暖房を調整するといった些細なことを議題にすることも、もちろん構わない。

 利用者やプロセスから学習するスピードを速めることが、チームのパフォーマンスを高めることにつながり、価値あるプロダクトの提供へとつながっていく。

 次回は、IBM Garageコンポーネントの「Develop(開発)」について紹介する。利用者の課題を解決するMVPを構築する上でのポイントを紹介する。

木村 幸太(きむら・こうた)

日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業本部 IBM Garage事業部 部長。IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に入社後、さまざまな業種の企業への営業やCRM、マーケティング戦略の策定・実行支援、BPR、システム化構想から導入など経験する。2018年1月にスタートアップを支援するIBM BlueHub、同年10月よりIBM GarageのLeadに着任。近年は、イノベーションやデジタル変革をテーマに、デジタル戦略やアジャイル案件を数多く手がけている。

黒木 昭博(くろき・あきひろ)

日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 マネージングコンサルタント。事業変革の構想立案や、それに伴うデジタル活用、新サービスの企画コンサルティングを手掛ける。企業と顧客が一体になって価値を生み出す共創を促進する手法の研究開発や実践にも取り組む。著書に『0から1をつくる まだないビジネスモデルの描き方』(日経BP社、共著)、『徹底図解 IoTビジネスがよくわかる本』(SBクリエイティブ、共著)がある。修士(経営学)。

蛭田 雄一(ひるた・ゆういち)

日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 デベロッパー・リード(マネージング・コンサルタント)。2015年入社。大学時代にベンチャー企業を共同で起業。前職はゲーム会社にて、スマートフォン向けゲーム開発のディレクション・エンジニアとして、ヘルスケア事業にてスマートフォンアプリ開発のディレクションを担当した。

中岡 泰助(なかおか・たいすけ)

日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 コンサルタント。フランス プロヴァンス大学院 文化人類学修士課程修了後、日系メーカーの技術営業職を経てIBMに入社し、米国・欧州・日本における新規事業企画、業務改革等のコンサルティングに従事。アフリカのガーナやマリでの調査経験を有し、ブータンの開発政策に関する著作『Le développement basé sur le Bonheur National Brut』がある。