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Reason:AI技術を活用しより良い意思決定を導く【第12回】

木村 幸太、野村 哲也(日本IBM IBMコンサルティング事業本部)
2021年11月30日

DIKWモデルで読み解く変革推進の難しさ

 AI/データサイエンスを通じた価値創出とは、データから実用的な知識、すなわち示唆を導き、より良い意思決定を導くことを意味する。「データから示唆」と言っても一足飛びにはいかない。その理由を表現したモデルに「DIKW(Data:データ、Information:情報、Knowledge:知識、Wisdom:知恵)ピラミッド」がある(図2)。

図2:「DIKWピラミッド」モデル

 DIKWピラミッドモデルにおいて、その最下層に位置するのがDataだ。ここでいうデータとは、それ自体では意味を持たない数字や記号などのシンボルを表す。

 次に位置するのがInformation(情報)である。それ自体意味を持たないデータを加工・統合することで「いつ、どこで、だれが、何を、どのくらい行ったか」を分析できる状態になった階層を表している。一般的には、この階層をもってデータと呼称されることが多い。

 その次に位置するのがKnowledge(知識)だ。Informationに対し、予測、最適化といった技術を適用することで、「どうすべきか」といった示唆を提示する階層である。

 そして最上位階層がWisdom(知恵)である。Knowledge階層で得られた示唆をもとに意思決定・アクションを導出する階層になる。

 このDIKWピラミッドをもとに、AI/データサイエンスを通じた価値創出活動を紐解くと、次のような活動が必要になる。

「それ自体は意味を持たないDataを加工・統合して分析可能なInformationを整備し、そのInformationに対してAI/データサイエンスを活用することで実用的な知識となるKnowledgeを獲得する。KnowledgeをもとにユーザーはWisdomを導出し、意思決定・アクションにより価値を創出する」

 こう書くと、手順に従えば価値につながるようにとらえられるかもしれない。だが、もう一度DIKWピラミッドモデルを見てほしい。上層になるほど小さくなる構造をしている。このピラミッド構造が意味するのは、下層のInformationを整備したとしても、「そこからKnowledge、そしてWisdomといった価値に変換される割合は、そのごく一部である」ということだ。

ミニ演習1

状況 :A社では全社のデジタル変革を加速させるためにデジタル変革推進室を立ち上げた。あなたはデータサイエンティストとして、このデジタル変革推進室に所属しており、室長から今後のデジタル変革のアプローチの提示を求められている。あなたは、どのような行動を起こすだろか。

選択肢
アクションa :AI/データサイエンスの活用に向け、データの整備から着手する
アクションb :AI/データサイエンスの活用を通じて価値を提供すべきユースケースの検討から着手する

 いずれの選択肢も解になり得る。だが、そこには前提が伴う。

 図3は、AI/データサイエンスの適用に向けた活動を、(1)ビジネス課題の理解、(2)データ理解、(3)データ準備、(4)モデル作成、(5)モデル評価とチューニング、(6)本番実装の6つに分解し、それぞれの負荷を比率で表したものだ。

図3:AI/データサイエンスを通じ価値を導出するためにかかる負荷の比率

 ここから分かるのは、一般的に、モデル作成に向けたデータ準備=Informationに仕立てる加工・整理までで約8割の工数を費やすという事実である。つまり価値創出につながると信じ、多大な労力をかけてデータを整備してAI技術を実装したとしても、その価値の仮説が外れた場合は、膨大な工数が無駄になり得るわけだ。

 この事実を前提に先の選択肢を考えると、短期的に多大なリソースを割いてトップダウンで投資をして取り組みを進められる場合、アクションaのアプローチは有効である。

 あるいは、分析の土台となるデータ(DIKWピラミッドモデルのInformation)がある程度整備され、比較的少ないリソースで整備できる場合もアクションaは有効だろう。

 いずれもが成立しない場合、つまり多くの場合は、アクションbを選択することが解になる。では、ユースケースの検討から着手するとすれば、どのように取り組めばよいのだろうか。