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  • データ活用力をDataOpsで高める

データ活用の障壁をDataOpsで回避する【第1回】

橋本 秀太郎(日鉄ソリューションズ DX推進&ソリューション企画・コンサルティングセンター エキスパート)
2020年10月9日

DataとOpsが協働し業務を改善する

 DataOpsは、ソフトウエア開発の分野で既に確立されているDevOps(開発と運用の融合)の考え方が元になっている。ただし、DevOpsのOpsがソフトウエアの運用を表しているのに対し、DataOpsのOpsはデータを活用する業務を表している。

 DataOpsのポイントは、データを届ける側の部門(Data)と、データを活用する側の部門(Ops)が協働することだ。「データを活用し業務を改善する」「データ活用で得られた価値や知見をフィードバックしてデータを改善する」という改善サイクルを、関係する部門と担当者全員が協働しながら高速かつ高品質に回していくことが重要になる(図2)。

図2:DataOpsのポイントは、データを届ける側の部門(Data)とデータを活用する側の部門(Ops)が協働して改善サイクルを回すこと

 初期段階では想定していないような潜在的な障壁が多いかもしれない。だが、関係する部門と担当者が同じ理想像を持ってサイクルを回し続けることで徐々に障壁が顕在化され取り除かれていき、持続的にデータ活用力を高められるのだ。

DataOpsでデータ活用を高品質に

 データ活用には、大きく分けて2種類のプロセスがある(図3)。(1)データ活用の企画から始まり、データ分析によるモデル開発やシステム化を経てデータ活用を業務に導入し実用化するプロセスと、(2)日々の業務の中で、業務環境からデータを収集・蓄積し、データの集計やモデルによる予測といったデータ処理を経て業務の意思決定に利用するプロセスだ。

図3:データ活用には2種類のプロセスがある

 製造プロセスに例えると、企画から実用化という前者のプロセスは「エンジニアリングチェーン」、データ収集から意思決定という後者のプロセスは「サプライチェーン」と呼ばれているプロセスに当たる。

 DataOpsは、この両方のプロセスについて有効だ。企画から実用化のプロセスにDataOpsを利用すれば、企画したデータ活用をいち早く業務に導入して検証できるようになる。これにより、得られたデータや知見をフィードバックすることによる改善や、使われないものや期待効果が得られないものに時間をかけてしまうリスクを低減できる。

 一方、データ収集から意思決定のプロセスにDataOpsを利用すれば、さまざまな組織で得られた最新のデータを即座に取得・分析し、活用できるようになる。業務の意思決定の正確さや機動性の向上が見込める。

 このようなData → Ops、Ops → Dataのサイクルを繰り返していくことで、部門の枠を越えた協働やデータドリブン文化の醸成につながることも期待できるだろう。

 もちろん、分析部門やIT部門にとっても業務活用で得られるフィードバックは重要である。フィードバックで分析技術やデータ品質が向上すれば、事業への貢献をより高められる。

DataOpsの万能解はない

 なお、DataOpsの実現方法は、業種や組織の構造、利用技術などにより最適解が異なる。「こうすればDataOpsが必ず実現できる」という万能解は残念ながら存在しない。

 そのため本連載では、機械学習モデルの業務活用という具体的な例を題材に、データの生成部門と活用部門が異なる企業を想定しDataOpsを実現するケーススタディを紹介する。なるべく多くの読者の参考になるように、データ分析部門や、業務システムおよびデータ基盤を運用・保守するIT部門なども関係する部門横断的なプロジェクトを取り上げる。

 次回からは、以下を全5回の予定で説明する。

  • 第2回:データ活用による事業貢献の最大化のために必要となるデータの品質と管理方法
  • 第3回:Data → Opsのプロセス(データ分析で機械学習モデルを構築し業務活用につなげるまで)における業務側と分析側、IT側の連携
  • 第4回:Ops → Dataのプロセス(機械学習モデルを安定的に業務活用しつつ、得られた知見をフィードバックして改善していく)における、業務側と分析側、IT側の連携
  • 第5回:データ活用力を高めようとする企業が踏むべきステップについて、モデルとなるシナリオ

橋本 秀太郎(はしもと・しゅうたろう)

日鉄ソリューションズ DX推進&ソリューション企画・コンサルティングセンター エキスパート 兼 技術本部 システム研究開発センター インテリジェンス研究部 主務研究員。博士(情報科学)。2014年新日鉄住金ソリューションズ(現日鉄ソリューションズ)入社後、研究開発部門でデータ分析に関する研究開発および案件に従事。2020年より現職。機械学習モデルの開発や運用保守、DataOpsに関する研究開発に取り組みつつ、製造業をはじめとした幅広い業種のデータ分析やデータ基盤構築の実行およびチームリーダーを担当している。