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高度化と本格実装が加速するスマートシティのエネルギー施策【第18回】

藤井 篤之、藤野 良(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年10月27日

さいたま市とトヨタの取り組みに全国が注目

 では、実際のスマートシティでは、どのようなエネルギー領域の施策が進められているのだろうか。先行する2つの取り組み事例を紹介する。

スマートシティさいたま美園地区の統合的エネルギーマネジメント

 埼玉県さいたま市の浦和美園地区では、脱炭素循環型コミュニティの普及モデルの構築を目指した取り組みが進められている。統合的なエネルギーマネジメントの実装が進展した事例として全国のスマートシティから注目を集めている(図2)。

図2:スマートシティさいたま美園地区のエネルギーマネジメントシステムの概要(出典:Looopのプレスリリース

 2022年2月、第3期の街区で51棟の住宅への入居が始まった。同街区には、商用電力系統から独立した自営線による配電網が構築されている。最大の特徴は、平常時と災害発生時を問わず、街区全体がエネルギーを最適にマネジメントする思想でデザインされている点である。

 各住戸には電力事業者Looopが所有する太陽光パネルが設置されている。だが発電した電力を各住戸が直接自家消費できるように変換するパワーコンディショナーは設置されていない。各戸が発電した電気はすべて、街区内の電力系統に集約され、各住戸に再分配される仕組みだからだ。発電電力に余剰があれば街区全体でシェアリングする定置型蓄電池とEV(電気自動車)に蓄電し、必要に応じて放電する。

 この仕組みにより、再生エネルギーの自家消費率が60%超、街区内電力の再生エネルギー消費率は実質100%(証書活用)、災害発生時の自律運転も15時間を実現している。

トヨタWoven City(ウーブン・シティ)の水素エネルギー活用

 トヨタ自動車が静岡県裾野市に建設を進める「Woven City(ウーブン・シティ)」は、同社の自動車工場跡地を利用し、面積約70.8万平方メートル、2000人以上の住民が暮らすグリーンフィールド型スマートシティである。水素エネルギーを街全体、生活圏全体に組み込む壮大なエネルギー施策として世界中から注目されている(図3)。

図3:トヨタ Woven Cityにおける水素エネルギー利用の全体像

 2021年2月に着工したWoven Cityでは、さまざまなパートナー企業や研究者と連携しての新たな街づくりが始まっている。エネルギー領域ではENEOSと共同でカーボンフリーの水素エネルギー利用を進めている。

 ENEOSは、Woven Cityの隣接地に水素ステーションを建設。水電解装置により再生可能エネルギー由来の水素である「グリーン水素」を製造し、Woven Cityに供給する。トヨタは定置式の燃料電池発電機をWoven City内に設置し、その燃料としてグリーン水素を使用する計画だ。

 Woven Cityや、その近隣をカバーする物流機能として、燃料電池自動車(FCV)の導入を推進したり、水素の需給管理システムを構築したりする計画もある。住戸向けには、ポータブル式の水素カートリッジを開発し、必要に応じて水素エネルギーを供給する予定である。

価値を創出できるスマートシティに必要な要素

 こうしたエネルギー領域の新しいトレンドを踏まえながら、新たな価値を創出するためには、(1)多様なエネルギー資源・機器のマネジメントと取引技術の獲得、(2)街中のエネルギー資源・機器を有効活用できるスキームの構築、(3)エネルギー環境変化への対応力が必要だろう。それぞれのケイパビリティ(能力)を強化し、早い段階から実績を積み上げていくことが成功の近道になる。

(1)多様なエネルギー資源・機器のマネジメントと取引技術の獲得

 スマートシティの街中には、さまざまなエネルギー資源・機器が存在する。出力変動電源(再生可能エネルギー)、蓄電池やEVなどの蓄電装置、各住戸や事業者と連携した需要機器などだ。これらを取り扱いながら街全体のエネルギーの需要と供給を継続して最適化できる技術や仕組みが必要である。まずは、これらをスマートシティに取り入れることが求められる。

(2)街中のエネルギー資源・機器を有効活用できるスキームの構築

 スマートシティの対象街区と、その周辺におけるエネルギーの需要と供給を把握したうえで、街区内でシェアリングするエネルギー資源・機器の活用スキームを構築する必要がある。例えば、タウンマネジメント会社が充電ステーションや蓄電池を保有し、利用料を課金するような仕組みだ。

 また、平常時にはインセンティブを付与し、災害発生時にはEVの制御権を借りるなど、各住戸や事業者が保有するエネルギー資源・機器を有効活用するためのスキームの構築も重要になってくる。

(3)エネルギー環境変化への対応力

 エネルギーの調達環境やエネルギーに関する制度設計の変化を踏まえ、街区におけるエネルギーサービスをアップデートしていく必要がある。例えば、卸電力市場の価格変動によるリスクを最小化するために蓄電池を街中に配置したり、需給調整市場の商品メニュー拡充を想定し必要なリソース制御能力をあらかじめ強化したりすることが考えられる。

 さらに、配電ライセンス制度を活用し、街区に対する、より高度なサービスの提供や、事業者の収益機会拡大の可能性評価なども視野に入れておくべきだろう。

 このように、スマートシティにおけるエネルギー領域は今後、今回説明したような取り組みを進めることで、さらなる進化が期待されている。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

藤野 良(ふじの・りょう)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ プリンシパル・ディレクター。東京大学卒業後、2005年アクセンチュア入社。エネルギー関連企業を中心に、事業戦略、新規事業創造、デジタル活用戦略(AI、IoT等)などの戦略立案から、オペレーティングモデル設計・戦略実行フェーズまで多数従事している。