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PHR基盤が「自然と健康になれる社会」の実現を支える【第37回】

藤井 篤之、竹井 陽一、若杉 司(アクセンチュア)
2025年1月30日

前回前々回と、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)が、どのように未来のヘルスケアを創出し、健康・長寿な社会を実現していくかについて説明してきた。今回は、PHRを活用するための情報連携基盤(PHR基盤)の特性とメリット、およびスマートシティの拡大への貢献について説明する。

 経済産業省は、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)を社会実装し健康・医療データの利用によって「自然と健康になれる社会」を実現しようとしている。そこでは、情報連携基盤(PHR基盤)を用いることで、データの流通を促し、多種多様なヘルスケアサービスを相互に接続することで、持続的かつ発展的な機能拡張を描いている。

 住民の健康増進はもちろん、経済の観点でも企業の健康経営に資する取り組みにも経産省は位置付けている。厚生労働省も「健康日本21(第3次)」では「健康寿命をのばそう!」をスローガンに「スマート・ライフ・プロジェクト」を推進中である。

図1:厚生労働省が進める「健康日本 21(第3次)」の概念(出所:『健康日本 21(第三次)推進のための説明資料』、厚生労働省、2023年5月)

PHR基盤は「データの案内所」に特化しデータを保持しない

 PHR基盤を通じてデータを流通させる構造は、スマートシティにおける情報連携基盤である「都市OS」と同じである。住民一人ひとりが自身の健康データを安心して提供・利用しながらPHR産業全体を発展させていくことは、スマートシティの拡大に直結するといえる。

 従来、住民のヘルスケアデータは、医療機関やデバイスにバラバラに分散し、自身の健康状態の全体像を把握することは困難だった。この課題に対しPHR基盤があれば、個人も医師もデータを伝え合ったり説明したりする手間が大幅に減る。PHRデータ事業者とサービス事業者を分け、PHR基盤を介してデータとサービスを結び付ければ、従来にない組み合わせや柔軟性のある新サービスの創出が容易になる。

 ただ「ヘルスケアのデータ活用」と聞けば、データの取り扱いやセキュリティに対する懸念も生じるはずだ。この懸念に対しPHR基盤は、データ連携のための基盤として「データ非保持型」として設計されており、PHRデータを直接的には保持しない。データを内部に保持することは、サイバー攻撃を受けた際の情報漏洩リスクを高め、セキュリティを管理するための負担が増加するからだ。

 PHR基盤は、PHR事業者とサービス事業者をつなぎ合わせるための「データの案内所」の役目に特化している。「どこに、どのようなデータがあるのか」という情報だけを管理し、連携先のシステムが管理する最新のPHRデータを参照することで、鮮度が高く、かつ安全なデータ連携を可能にする。大規模なデータストレージも不要になり、導入・運用コストを抑制できる。

 またPHR基盤は、病院間や各種デバイス間のシームレスなデータ連携のために米国のHL7協会が定める世界標準規格「HL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resource)、エイチエルセブン・ファイアー」に準拠している。HL7 FHIRは医療データにおける国際的な“共通語”に位置付けられ、同規格に準拠することで、出張中や旅先での急病時や転院時にもスムーズな医療情報連携が可能になる。