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「二層分離」によるスマートシティが求める市民開発とデータ連携基盤【第39回】

藤井 篤之、米重 護(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2026年4月30日

生成AI技術による市民開発が現場の参画を可能に

 制度と技術が整った後に、最後に必要になるのが「人」だ。スマートシティの主役は本来、大手ITベンダーでも中央の司令塔ではなく、現場の課題を最もよく知る職員や、そこで生活する市民自身であるべきだ。

 自治体職員や市民の参画を今、生成AI技術とノーコード開発ツールの普及が後押ししようとしている。プログラミング経験のない自治体職員や市民が、生成AI技術とノーコード開発ツールを組み合わせてアプリケーションを開発する「市民開発(Citizen Development)」が現実のものになりつつある。

 既に、プログラミング未経験の職員が生成AI技術の支援を受けてアプリを作成し、書類の作成時間を大幅に削減したり、若手とベテランがペアを組むバディ制や全庁的な「ChatGPT」の導入により職員の約8割が「業務効率が上がった」と回答したりする事例が登場している。

 そこで重要となるのが堅牢な基盤の役割である。市民開発が進めば進むほど、アプリの数やデータの流通量が増えるだけに、その土台になる認証基盤やデータ連携基盤には一定以上のセキュリティ水準が不可欠になる。

 デジタル庁も、認証・認可や、API(Application Programming Interface)管理、データ連携を一元的に担うデータ連携基盤の活用を推進している。堅牢なプラットフォームが、生成AI技術を活用した市民開発に適応し、安全な基盤として機能することで初めて、市民が開発したアプリやデータが安全に流通するようになる。

 デジタル公共財としての堅牢なデータ連携基盤に、市民が自ら開発したアプリを自由に載せてサービスを展開するといった基盤ファーストの二層構造こそが、日本型スマートシティを再起動するための技術的な核になる。

人間中心で現場自らが課題を解決する自律分散型都市を目指す

 AI前提時代のスマートシティは、きらびやかな未来技術の展示場ではない。「人間中心の自律分散型都市」こそが目指すべき姿だ。すなわち、リスクを許容する「実験」と、安定的な「実装」を制度的に切り分け、AI技術という武器を使ってデータの混沌を乗り越え、現場の人々が自ら課題を解決していく。

 次回からは、前回と今回とで提示した前提条件に基づき、教育やエネルギー、モビリティ、行政などの各テーマにおける具体的な未来図と、その実現に向けた処方箋を紐解いていく。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。現在は戦略グループにおけるAI関連ビジネスのリードを務める。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

米重 護(よねしげ・まもる)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ シニア・マネジャー。通信事業者を経て2017年アクセンチュア入社。テクノロジーストラテジー領域にて、通信・建設・自動車等の社会インフラを基軸に、5Gやデジタルツインを活用したDX戦略・新規事業構想に従事。現在はエージェント型AIを企業の抜本的改革の鍵に位置付け、本領域のビジネス創出をリード。「技術と人間性の融合」を掲げ、通信事業者のAI駆動開発戦略など、業界変革プロジェクトを多数手掛ける。