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AI時代の“攻め”の社会インフラとして計算と電力をつなぐ自律型ネットワーク【第40回】

藤井 篤之、山田 達也、増田 暁仁、中野 陽太(アクセンチュア)
2026年5月14日

 そこで必要になるのは、用途の違いを踏まえて「どの通信を、どの経路で、どの優先度で流すか」を状況に応じて判断し、リアルタイムに振り分け続けることである。

 そうした要件を実現するための概念が「自律型ネットワーク(Autonomous Network)」である(図2)。通信インフラのオペレーションにAI技術を張り巡らせることで、あらゆるサービス要求や、インテント(意図)を理解した上で、動的かつ全体最適なトラフィック制御を、レジリエンス高く実現する。

図2:AI時代のネットワークとしての「自律型ネットワーク(Autonomous Network)」の概念

 自律型ネットワークに求められるポイントは次の3つに整理できる。

ポイント1 :必要な速度・遅延・安定性を、区間ごとではなく、端から端まで(エンドツーエンド)で満たすこと
ポイント2 :混雑や障害が発生したら、人手を介さず迂回や帯域再配分を実行し、AIサービス側のSLA(Service Level Agreement:サービス品質基準)を守ること
ポイント3 :アプリや運用者が「こうしてほしい」という意図を自然言語やポリシーで伝えると、その設定を自動で組み立て最適化し続けること

自律型ネットワークの実現にはエッジ環境やデータの整備などが前提に

 これら要件の実現に向けては不足している要素がいくつかある。

不足要素1:エッジコンピューティング基盤の整備

 AIトラフィックの多くは利用者や制御対象に近い場所で処理した方が体験品質と通信負荷の両面で合理的だ。だが、その計算場所になるエッジ拠点とアクセスネットワークの設計は、まだ過渡期にある。

不足要素2:データの整備

 トラフィックの自律差配には、AIシステムが通信機器の現状をリアルタイムに把握することが絶対条件である。だが現状、通信機器の設定内容や相互関係を示すインベントリー・トポロジーデータは、多くの場合、ベンダーや機器種別ごとにサイロ化されており、規格も統一されていない。結果、「AIエージェントはできたが学習させるデータがない」という状況が多発する。

 一方で、バラバラになっているデータを1つのデータベースに統合するには、莫大な時間とコストがかかる。そのため最近は、米マイクロソフトなどのハイパースケーラーを筆頭に「データファブリック」や「データメッシュ」といった概念が打ち出されている。今あるデータやデータベースはそのままに、AI技術に解釈させて仮想的に束ねて統合する仕組みだ。これにより、データ整備には糸口が見え始めている。

不足要素3:セキュリティと安全性の要件

 AIシステムに権限を委譲する自律型ネットワーク構想においては、1つのAIエージェントが人より多くの権限を保有しがちである。結果、そこを突いたサイバー攻撃への脆弱性や、そこからの連鎖的なカスケード障害のリスクが高まる。

 加えて、流れるデータの中身自体も、例えばAI学習用の大量個人情報や推論に用いる企業の秘匿情報などは、そのセンシティブさが増し、それらの傍受や窃取による損害のリスクも自ずと高まる。対応策としては、ゼロトラストを含む強固なセキュリティアーキテクチャの具備が求められる。

 国内外の通信キャリアでも、AI/機械学習(ML:Machine Learning)を使ったトラフィック解析や障害予兆検知、設定自動化など、自律運用に向けたピースを着実に積み上げている。しかし、多くは運用負荷の軽減や構築の迅速化といった“守り”の文脈に軸足がある、AIアプリのSLAと安全性をエンドツーエンドで保証する“攻め”の自律運転に向けた試行は一部にとどまっている。

どこで計算し、どこから電力を得るのかが次の課題に

 自律型ネットワークがAIトラフィックをインテント通りに運べるようになれば、次に問われるのは「そもそも、どこで計算し、その電力は、どこから持ってくるのか」だ。

 例えば、リアルタイム性が求められる推論は利用者や制御対象に近いエッジで処理し、時間シフトが可能な学習やバッチ処理は電力と土地に余裕のある地域へ逃がす。こうした運転を実現するには、計算層と電力層を含めた3層一体の設計が欠かせない。

 次回は、この視点をさらに広げ、電力インフラと通信インフラを連携させる「ワット・ビット連携」構想を中核に、計算層と電力層をどう組み合わせればAI時代の都市が“攻め”のインフラを確保できるのかを見ていく。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。現在は戦略グループにおけるAI関連ビジネスのリードを務める。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

山田 達也(やまだ・たつや)

アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループ プリンシパル・ディレクター。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修士課程終了後、2011年アクセンチュア入社。通信業界を中心に新規事業・業務変革など幅広いテーマでの戦略立案を支援。近年は特に、生成AIなどを活用した経営改革や業務改革などにも注力。5G×産業変革ムック本、生成AIムック本などメディアにも多数寄稿。

増田 暁仁(ますだ・あきひと)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ シニアマネジャー。立命館大学文学部人文学科地理学専攻卒業後、2014年アクセンチュア入社。先進技術を中心とした新規事業戦略立案、スマートシティ戦略策定実績多数。近年は官庁やインフラ企業等の大規模変革案件に従事。

中野 陽太(なかの・ようた)

アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループ マネジャー。東京大学文学部 社会心理学専修課程卒業後、大手通信会社を経て、2020年アクセンチュア入社。通信業界の新規事業戦略立案・AI戦略策定など支援実績多数。特に通信業界におけるAI戦略・ユースケースに精通。