• Column
  • スマートシティのいろは

自動運転の“冷徹な現実”と“クロスセクター”の必然性【第44回】

増田 暁仁、矢島 史也(監修:藤井 篤之、アクセンチュア)
2026年7月16日

従来型インフラの限界を“クロスセクター効果”で突破

 この厳しい経済的制約を前にしたとき、私たちは人口急減期に向き合わざるを得なくなる。予算も人員も、そこで暮らす生活者も激減していくこれからの日本において、全ての地域を従来通りの姿で維持することは、物理的にも財政的にも不可能だからだ。

 国立社会保障・人口問題研究所の出生中位・死亡中位推計では、日本の総人口は2045年に1億880万人、2056年に1億人を下回って9965万人、2070年には8700万人になると見込まれている。とりわけ地方の人口減少は加速し、2050年時点で現在の半分以下の人口となる市区町村は全体の約4割に上ると試算されている。

 生産年齢人口の減少は税収の縮小に直結し、自治体の財政はすでに逼迫している。これまでのように、全ての集落に個別路線バスを走らせ、全ての地域に従来通りの行政サービスを網羅し続けられない。既存の街や交通の形をそのまま残すことに固執し続けるならば、地方インフラは共倒れしていく。

 だからこそ、従来の「道路は道路、バスはバス、病院は病院」という縦割りの固定的なインフラ発想を完全に捨てる必要がある。モビリティ単体でビジネスケースが成立しないのであれば、交通を単なる“人を運ぶ手段”として独立して考えるのをやめ、あらゆる分野を同じ移動体、同じシステムの上で統合する“クロスセクター”へと舵を切るべきだ(図2)。

図2:交通分野の“クロスセクター効果”のイメージ(出所:『地域公共交通 赤字=廃止でいいの?』、国土交通省近畿運輸局)

交通を“単体収支”ではなく“社会的便益”で捉える

 過疎地で自動運転が困難な本質的な理由は、最終盤の超局所的な移動ニーズ、いわゆる「ラストマイル」規模の移動に対応できる単体のビジネスモデルが存在しないことにある。だからこそ、地域公共交通の価値はモビリティ単体の収支ではなく、医療・福祉・行政にまたがる社会的便益の総量、すなわち“クロスセクター効果”として評価すべきだ。

 その支援は単なる赤字補填ではなく「地域を持続するための必要なインフラ支出」にほかならない。実際、自動運転サービスをこのクロスセクター効果の観点で定量的に評価すると、単体の採算では見えない高い社会的価値を持つことも学術的に実証されつつある。

 少子高齢化によって、病院へのアクセスが途絶え、物流ネットワークが維持できなくなり、地域のガソリンスタンドすら失われていく地域を考えてみたい。そこに導入される次世代のモビリティは、もはや単なるバスではない。

 例えば昼間は、高齢者を医療機関や買い物の場へと運ぶ「通院・生活MaaS(Mobility as a Service)」として機能する。定期的な通院が困難になり悪化する慢性疾患の医療費増大を、モビリティが未然に抑制する。移動そのものが医療コストの削減装置として機能するという発想だ。夕方になれば、地域の共同売店や農家の商品、生活物資を運ぶ「物流機能を担うモビリティ」へと姿を変える。

 過疎地では宅配業者の撤退も進んでいる。同一の車両/ルートに旅客と貨物を混載する「貨客混載」は、物流の維持とモビリティコストの分担を同時に実現する。そして夜間は、再生可能エネルギーや地域電力が余っているエリアでは、EV(Electric Vehicle:電気自動車)車両のバッテリーがエネルギーの需給調整を担う「可動型の分散蓄電資源」になる。走行していない時間帯も、地域エネルギー網を支えるアセットとして収益を生み出す。

 こうした多機能化は、単なる効率化ではない。分野ごとに個別にコストを支払い、個別に赤字を掘り下げていた行政・民間のインフラを、1つの動的な移動システムへと一体的に統合する構造転換である。モビリティ単体では赤字であっても、医療費の抑制、物流の維持、エネルギーの地産地消といった地域全体の社会的便益(クロスセクター効果)を合算したときに初めて、その地域の生活基盤を維持する最低条件を満たせる。

個人最適から地域最適へ発想を転換する

 もっとも、このような仕組みは都市部と同等の利便性をそのまま提供するものではない。過疎地域では人口密度や需要規模の制約から、利用者にも一定の協力が求められるものと考えられる。

 具体的には、完全なドアツードア輸送ではなく地域の乗降拠点まで移動することや、予約制・乗合制の受容、移動時間帯の調整などだ。言い換えれば、限られた地域資源を共有しながら生活基盤を維持するための「適度な不便の分かち合い」が前提になる。

 しかし、それによって通院機会や買い物機会が確保され、地域コミュニティや医療・福祉サービスが維持されるのであれば、その不便は単なるサービス水準の低下ではなく、持続可能性とのトレードオフとして理解されるべきである。個人の移動自由度の最大化を追求するのではなく、地域全体の生活基盤を守るという観点から、個人最適から地域最適への発想の転換が求められている。

 他方、こうした地域最適は住民側の理解だけで実現するものではない。モビリティを核に、医療、物流、エネルギーといった異なる分野を横断的に連携させる制度設計と運営体制が不可欠だ。医療、物流、エネルギーは、それぞれ所管省庁が異なり、予算の縦割り構造は根深い。民間事業者の利害も複雑に絡み合う。地域住民の合意形成にも時間がかかる。

 だからこそ「全てを単独で維持することはもはや不可能だ」という厳しい共通認識を出発点に、セクターを横断した合意形成を粘り強く積み重ねるほかない。重要なのは、クロスセクターの発想はコストカットや効率化が目的ではないという点だ。

 その目的は、リソースが縮小していく中でも、その地域に暮らす人々の生活の質(QoL:Quality of Life)を維持すること。そして、この異分野連携を成立させるためには、その大前提として、受け皿となる地域交通ネットワークそのものが、事業者や交通手段の壁を超えて一体的に機能していなければならない。

増田 暁仁(ますだ・あきひと)

アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ プリンシパル・ディレクター。立命館大学文学部人文学科地理学専攻卒業後、2014年アクセンチュア入社。先進技術を中心とした新規事業戦略や産業全体のR&Dの実行・実装支援、スマートシティ戦略策定、都市・交通等の国土交通領域にデジタル等を活用する政策・施策立案支援等、実績多数。近年は官庁やインフラ企業等の大規模変革案件に従事。

矢島 史也(やじま・ふみや)

アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジャー。東京工業大学(現:東京科学大学)大学院総合理工学研究科メカノマイクロ工学専攻修了後、大手電機メーカーを経て、2020年アクセンチュア入社。先進技術を中心とした新規事業戦略立案実績多数。近年は官庁等の大規模変革案件に従事。

監修:藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。現在は戦略グループにおけるAI関連ビジネスのリードを務める。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。