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自動運転の“冷徹な現実”と“クロスセクター”の必然性【第44回】

増田 暁仁、矢島 史也(監修:藤井 篤之、アクセンチュア)
2026年7月16日

前回は、フィジカルAI(人工知能)の台頭によりスマートシティに求められる人材や組織のあり方が再定義されつつあることを解説した。今回と次回は、スマートシティを支える中核テーマの1つ「モビリティ」を取り上げる。今回は、モビリティ領域での期待が高い自動運転が直面する採算面の限界を出発点に、交通を医療・物流・エネルギーなどを支える地域インフラとして捉え直す必要性を考える。

 日本の地方では今、路線バスの廃止が急速に進んでいる。運転手不足や、利用者の減少、専門人材の枯渇などを背景に、地域の足を長年支えてきた公共交通の持続可能性が課題になっている。

 国土交通省の資料によれば、民営乗合バス事業は長年にわたり厳しい収支状況が続いている。乗合バス路線は2000年度から2022年度までの累計で約21.9万キロメートルが廃止され、地域交通の縮小が着実に進んでいる(図1)。これは過疎地だけの話ではない。県庁所在地周辺でも、1日数本しか走らない路線が次々と姿を消し、高齢者などが病院や買い物に行く手段を失っている。

図1:地域交通が抱える課題(出所:『地域交通におけるデジタル技術活用に関する調査研究レポート』、国土交通省をもとにアクセンチュア集計)

 バス運転手の有効求人倍率は他の職種を大きく上回る。「人を集めても育てる時間も余裕もない」という事業者の声が全国で聞かれる。この“交通空白”の深刻さが増すなかで、行政が繰り返し持ち出す解決策が「自動運転」だ。しかし、現実は、それほど甘くはない。

自動運転の実証実験と事業化の間には“深い溝”がある

 自動運転は、地方の交通空白や運転手不足を解決する切り札として期待されている。しかし、技術や制度が整いつつあるにもかかわらず、実証実験の成果は必ずしも持続的な事業化につながっていない。

 スマートシティの未来像には、ロボタクシーの疾走、無人の自動運転バスによる高齢者の送迎、ドローンや自動配送ロボットが飛び交う物流など、華やかなモビリティテクノロジーが、必ずと言ってよいほどに据えられている。国内でも「自動運転の時代はすぐそこまで来ている」として、国交省の自動運転社会実装推進事業が全国107の自治体などで実施されてきた。

 しかし、実証実験の幕が閉じ、補助金交付の期間が終われば、車両もシステムも地域から姿を消してしまう。技術はすでに目の前にあり、センサーの精度もアルゴリズムも成熟しつつある。にもかかわらず自動運転は、なぜ一向に“地域の日常の風景”として社会実装されないのだろうか。

 よく挙げられる理由は、法規制の遅れや住民の受容性の低さである。だが、ドライバーが運転席にいる必要がない「特定条件下での完全自動運転(レベル4)」を可能にする改正道路交通法が2023年4月に施行されるなど制度環境は整いつつある。にもかかわらず、全国規模での普及には至っていない。

 社会実装の遅れの原因を、規制や意識の問題に帰すのは本質を見誤っている。実際、規制が整った後も、事業化されているレベル4の自動運転サービスは2026年1月時点で9件しかない。技術と制度がそろっても「誰が、どうやって、採算を合わせるか」という問いに答えが出ていないのが現実の姿だ。

自動運転の採算性を遠隔監視や現地対応コストが阻む

 自動運転の最大のボトルネックは「運転手をシステムに置き換えるだけでは、著しく過疎化が進んだ地方での経済合理性が成り立たない」という厳しい現実である。運転手に係るコストは下がっても、遠隔監視システムの構築・維持費、それを支える強靭な通信インフラのコストは残る。固定費を賄うだけの利用者がいない過疎地ほど、1人を運ぶためのコストは膨らんでしまう。これが、技術があっても採算が合わない構造的な理由である。

 さらに見落とされがちなのが、自動運転システムの事後対応コストだ。完全無人での運行が困難な現状では、車両が路肩に停車するなどのトラブルが発生するたびに、現地に人間が駆けつける必要がある。人口が密集した都市部であれば対応要員を効率的に配置できるが、地域によっては現地対応に長時間を要する場合もある。

 その結果、遠隔監視体制に加えて現地対応要員の確保・配置に係るコストが発生し、運行規模の小さい地域ほど1台当たり、あるいは利用者1人当たりの負担は大きくなる。

 つまり、実証実験と事業化の間には依然として構造的なギャップがある。多くの実証実験は技術検証を主目的に実施する傾向があるため、必ずしも事業採算性の検証を目的にしているわけではない。そのため、実証段階で得られた成果を持続的なサービスとして展開するためには、追加の検討が必要になる場合がある。

 「自動運転になれば、運転手不足に悩む地方の交通空白がすべて魔法のように解決する」という楽観論は魅力的に響く。だが、採算面の検証には耐えない。実証実験が繰り返されるたびに「成功」と言われながらも、補助金が切れれば誰も引き継がないということの繰り返しは、技術の問題ではなく、ビジネスモデルの問題だ。技術の進化が必ずしもインフラの持続可能性を担保するわけではないという現実から、私たちはスタートしなければならない。