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AIが書き替える労働市場の需給ギャップとリスキリングの中身【第42回】

平本 信敬(監修:藤井 篤之、アクセンチュア)
2026年6月11日

AI(人工知能)技術が労働市場を急速に塗り替えようとしている。その中で、都市・地域単位でテクノロジーによる価値向上を目指すスマートシティの営みは、都市や地方、あるいは知的労働・肉体労働という分断を超え、余剰と不足を再接続する基盤としての可能性を秘めている。今回は、AI技術がもたらす労働の急速な変動と分断の実像を追いながら、都市のデジタルインフラの設計が、その変動速度と行方を左右することを論じる。

 AI(人工知能)技術の利用が前提になってきた今、スマートシティを考える際にも、AI技術の恩恵を活かしつつ、人が人らしく活躍できる場をどう作るかの設計が従来に増して問われている。

AIの進化が人の仕事を“代替”する勢いを加速

 まず着目すべきは技術進化の速さだ。AI技術の実務的なコーディング能力を測る代表的な指標に「SWE-bench」がある。ソフトウエアの不具合をAIシステムに解かせて評価するもので、米プリンストン大学などが2023年に発表した。

 SWE-benchにおける当初の正答率は2%前後にとどまっていた。それが2026年に公開された「SWE-bench Pro」の最高スコアは約23%だった。SWE-bench Proは、正解コードを事前に見ていない状態でのみ測定できるよう設計されており、両者の単純比較はできないが、2年で10倍近くの進化を遂げている。

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授は、ロボットや自動化が労働市場に与える影響を長年研究してきた経済学者である。制度と経済成長の研究で2024年のノーベル経済学賞を受賞している。

 同氏によれば、AIシステムには、人間が新たに担う仕事を生み出す「共創型」と、労働需要を減らす「代替型」がある。情報処理をAI技術が担い、教育や医療などで人間がより高度で多様な仕事を担えるようにするのが前者、コンタクトセンターや事務処理をAI技術で置き換えるのが後者だ。現在は「後者が主流になりつつある」とアセモグル氏は警鐘を鳴らす。

 米Anthropicの「Claude Code」に象徴されるように、AI技術が仕事そのものを“代替”する競争は一段と激しさを増している。米OpenAIのCEO(最高経営責任者)であるサム・アルトマン氏は、AI技術があらゆるタスクを代替し、膨大な富が生まれることを早くから確信し、2016年の時点で労働に代わる所得補償(ベーシックインカム)研究への資金提供を表明してもいる。

 同研究では、イリノイ州とテキサス州の1000人を対象に月額1000ドルを2020年から3年間支給するという実験を実施した。結果、ベーシックインカムの受給者の就業時間は週1.3時間減り、学習・育児への時間が増えて生活の柔軟性が増したという。

 OpenAIが2026年4月に公表した『Industrial Policy for the Intelligence Age』は、AI技術が生む生産性向上の成果を労働者に還元する手段として、給与を維持したまま週32時間・4日労働制の試行を企業に求めた。AI技術の利用で浮いた時間を短縮勤務か有給休暇に転換し、退職金の積み増しや育児・介護支援にも充てる設計だ。効率化の利益を働く人にもたらすという思想は、「ChatGPT」をはじめとする生成AIシステムの普及により、政府・企業への提言へと射程を広げている。