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スキルの流通を支えるスマートシティが労働力マッチングを最適化【第43回】

平本 信敬(監修:藤井 篤之、アクセンチュア)
2026年6月25日

前回は、日本の労働市場が人口減少による絶対的な供給不足と、AI(人工知能)技術による知識職から現場職への需要構造の書き換えという2つの力にさらされていることを確認した。その変動速度を、フィジカルAIの台頭による都市と地方のインフラ設計が左右し、人材のリスキリングも都市計画の一部に組み込まれる。今回は、役割やスキルが急速に再定義されていく中で、スマートシティが適切な人材を適切な場所に受け入れ続けるための条件を探る。

 前回、AI(人工知能)技術によって学ぶ内容も学び方も変化し、労働そのものが移りゆく時代においては「自分が、これまで何を学び、どんな価値を出してきたか」というリスキリングの実践内容を証明する、すなわちスキルのアイデンティティが重要になると指摘した。

スキルを「個人が持ち運べる資産」に

 これまで、個人が獲得したスキルを社会に示す手段としては学歴と職歴が使われてきた。だが、これらは「どこにいたか」を証明する来歴が主であり、実際のスキルや学習歴の実証には向かない。このギャップを埋めようとする動きが、世界中で出始めている。

 Web標準を策定する国際機関W3Cが2025年に公開した勧告『Verifiable Credentials 2.0』が、その一例。資格やスキル、実績などの情報を、その発行から保有、提示までに改ざんされることなく流通させるための仕様である。欧州では、その技術標準を法制度化する動きが始まっている。

 EU(欧州連合)が2024年5月に発効した「デジタルID規制(eIDAS 2.0)」は、全加盟国に対し実施法の発効から24か月以内に「EUデジタルIDウォレット(EUDI Wallet)」を市民に提供することを義務付けている。EUDI Walletには、学歴・職業資格・医療記録などを格納でき、転職時に雇用主へ資格証明を提示したり、国境をまたいだ行政手続きを完結させたりする用途が明示されている。

 すでにEU加盟国を中心に550社以上の企業・行政機関がパイロット運用に参加している。2027年末には金融・医療・通信・教育など強固な認証を要する民間サービスでの受け入れが義務化される。スキルを「組織に帰属する情報」から「個人が持ち運べる資産」として扱う発想の転換が、法的インフラとして実現に向かっている。

 日本でも同様の動きが始まっている。アクセンチュアとNTTドコモ・グローバルが2026年1月に発表した「Universal Wallet Infrastructure(UWI)が、そのひとつ。デジタルIDや資産、文書といった“信頼の記録”を1つのウォレットに統合して持ち運ぶ基盤を目指している(図1)。官民や業界の垣根、国境を越えて円滑に相互利用できることを目指し、ユースケースを生み出そうとしている。

図1:UWIのイメージ。出所:https://universalwalletinfra.com/industries/employee-experience)

 前回論じたリスキリング投資の実効性も、学んだことが社会に届く流通経路があって初めて担保される。学びと労働と日常が交差するスマートシティにおいて、このウォレットは、身分証の進化のみならず、人と役割と場面をリアルタイムで接続するインフラにもなり得る。