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デジタルツインを構築するための5ステップ(後編)【第3回】

草薙 昭彦(Cognite チーフソリューションアーキテクト 兼 CTO JAPAN)
2021年4月20日

ステップ4:アプリケーションの開発

 デジタルツインのためのアプリケーション開発は、多くの企業にとって初めての経験でしょう。そのため要件を事前に明確にすることが難しく、最終利用者のフィードバックを受けて柔軟に方向修正できることが重要です。そのためにはアジャイル開発手法を採用し、その利点を生かす必要があります。

 アジャイル開発は、1〜2週間の短い期間でリリースを繰り返し利用者からのフィードバックを受けつつ、実用最小限の製品(MVP:Minimum Viable Product)を2カ月程度で完成させることを目指すという手法です。利用者にとっても開発の進捗が見やすい点、状況に応じて変更しやすい点で、取り組みやすい手法だといえるでしょう。

 デジタルツイン構築プロジェクトでは、次のようなアプリケーション開発の選択肢が考えられます。

(1)商用製品やオープンソースのツールを使った開発
(2)ローコードフレームワークを用いた開発
(3)スクラッチによるWebアプリケーション開発

 商用製品やオープンソースのツールを利用する大きな利点は、製品が備える機能を使って業務に展開できることです。業務に適したカスタマイズが柔軟にできるかどうか、データ基盤との連携機能があるかどうかが製品選択のポイントになります。

 最近ではユーザーに幅広いカスタマイズやデータアクセスの選択肢を提供する「セルフサービス型」の製品が増えるなど、UX(User Experience:ユーザー体験)の向上が図られています。

 業務に合わせた細かいカスタマイズが必要な場合は、近年注目を集めているローコードフレームワーク製品が選択肢に挙がってきます。事前に定義された様々な画面表示用部品を配置し、必要なデータの流れをコネクターで接続していくといったタイプの開発手法です。

 一方で、操作性や視認性が業務上の重要な要件であるなど、独自のアプリケーションを開発・運用することが適しているケースもあります。その場合でも、開発者のスキルや技術情報の入手の容易さなどを基準に、適切な開発フレームワークやライブラリを選択することで、開発・保守の効率を高められます。

 デジタルツインのためのアプリケーション特有のニーズに、工場などの現場におけるスマートフォンやタブレットからのデータアクセス、VR(Virtual Reality:仮想現実)/AR(Augmented Reality:拡張現実)といった新しい可視化デバイスの活用などがあります。

 そこでは、プラットフォームに依存しないWebアプリケーションの開発や、画面のレンダリング(描画)はサーバー側で処理し、それをストリーミング配信するといった仕組みを検討する必要もあるでしょう。

ステップ5:ユースケースの展開と継続的な改善

 ステップ4まではPoC(Proof of Concept:概念実証)プロジェクトで到達するケースが多いかもしれません。ところが、世の中のデジタルツイン構築プロジェクトでは、PoCまでは実施したものの、そこから先に進んでいないケースが多くみられます。実際のプロジェクト現場では、次のような声が聞かれます。

(1)作ってはみたものの思ったほどの投資対効果(ROI)が見込めない
(2)業務の一部分のみの改善など局所最適になり、むしろ全体最適を阻害している
(3)現場のプロセスの変化に対する抵抗がある

 プロジェクトが止まってしまう要因としては、適切なユースケースの選択の失敗や、ビジネス上の価値に関する議論の不足、必要な関係者の協力が得られないなど、プロジェクトの運用に起因する要素があるかもしれません。

 一方で、デジタルツインという新しい領域への挑戦なのですから、早々に手を止めてしまうことは、判断を下すのが早すぎる可能性もあります。

 データやデータ基盤の整備は、現在の業務理解とビジネス価値の再定義を伴います。それは成果が見えにくく根気が必要な作業です。1つのユースケースを実装しただけでは、労力に見合うだけの成果は得られないかもしれません。

 しかし、確固たるデータ基盤が一旦できあがれば、ユースケースを増やすほどメリットが増える構造になっているのも事実です。実際、ある現場では1つの小さな成功をきっかけに、データ活用の領域が急速に広がりビジネス価値を向上させている状況を筆者らは目の当たりにしています。

 最後に、冒頭で述べた段階的な短いサイクルで成果を目に見える形にしていくことの重要さを、もう一度強調しておきたいと思います。

 ある取り組みで効果が得られなかったという結果は、それ自体が組織にとって有用なノウハウの蓄積だと言えます。大切なのは、より早く試行を繰り返し、うまくいったことは迅速に展開し、継続的に改善を続けていくことです。だからこそ、それを実現するための組織体制や、プロジェクト参加者の意識の持ち方が重要なのです。

 次回は、デジタルツインに必要なIoT(モノのインターネット)とデータ基盤について、技術的な視点から説明します。

草薙 昭彦(くさなぎ・あきひこ)

Cognite チーフソリューションアーキテクト 兼 CTO JAPAN。1975 年神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科電子情報工学専攻修士課程修了。大手外資系IT企業数社を経て、現職。シンガポール在住。近年はデータエンジニアリング、分析および、その表現手法としてのビジュアライゼーション技術に重点を置いている。東京の公共交通3Dマップ「Mini Tokyo 3D」の作者としても知られる。