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デジタルツインに必要なデータ基盤の要件(前編)【第4回】
データ収集に必要な機能と考え方
デジタルツインの構築において、ほとんどのケースでは、企業がすでに所有しているデータを活用するところから始まります。データ基盤に対しデータを送り込む元のシステムを「データソース」と呼びますが、企業内のデータソースは大きくOT(Operational Technology:運用技術)システムとIT(Information Technology:情報技術)システムに分かれます(図2)。
OTシステムの代表例は、製造現場などでネットワーク接続されている分散制御システム(DCS:Distributed Control System)やSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)です。監視・制御が主な用途ですが、計測機器からのデータ収集やレポーティング用途にも使われています。
OTシステムは従来、ITシステムとは切り離されて運用されてきました。それも最近は、標準プロトコルへの対応やベンダーのIoT対応への動きが活発になり、ITシステムとの接続性が高まっています。産業分野では今後、DCSやSCADAのネットワークがセンサーデータ収集の中心になるでしょう。
センサーデータは、ある現象の時間的な変化を、連続的もしくは一定間隔をおいて不連続に観測して得られた一連の値です。時系列の形式で表現されます。収集された時系列は、「ヒストリアン」と呼ばれる時系列データベースに蓄積されることが一般的です。
従来、時系列データは、保管コストやネットワーク帯域の制限などの理由から、大幅に間引いたデータのみを格納したり、短期間で削除したりする形で運用されるケースが多く見られました。今はIT技術の進展に伴い、高解像度の長期にわたるデータの分析や、OTシステム外での即時性のあるデータの活用のため、より大量のデータ処理能力と高い送信頻度が求められるようになりました。
一方、ITシステムには、資産管理や、保全管理、品質管理、文書管理といった業務に特化したシステムのほか、会計データを中心に企業活動に関連するデータを管理するERP(Enterprise Resource Planning)システム、オフィス文書を格納するファイルサーバなど、様々なシステムがあります。
データソースからのデータの収集・送信は、既存システムに近い場所で動作する専用の小規模なソフトウェアで実行するのが一般的です。そのソフトウェアは「コレクター」「エージェント」「エッジモジュール」などと呼ばれます。いずれも、データソースに接続し、対象になるデータを定期的に読み取り、データ基盤に送信するという役割を持っています。
データソースであるシステムへの影響を最小限に抑えるために、コレクターによるアクセスは読み取りのみに限定し、データレコードに含まれるタイムスタンプなどを用いて、前回の読み取り分からの差分のみを取り出すようにします。
データ収集ソフトウェアの多くは、通信障害時に送信データを一時的に溜めておくバッファリング機能や、動作を記録し統合監視サーバにログを送信するロギング機能を備えています。
例えば弊社Cognite製の「Cognite Data Fusion」は、データ収集に「Extractor」というソフトウェアを使用し、クラウド環境の監視管理ツールとして知られる「Prometheus」に対応したロギング機能とバッファリング機能のほか、データ本体に付随するメタ情報を収集する機能もあります。