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  • withコロナが求めるDX基盤のための3つの条件

“攻め”と“守り”のDXを隔てる障壁を排除する【条件1】

佐藤 幸樹(インフォアジャパン プリンシパルソリューションアーキテクト)
2021年2月22日

“守り”のDXの要件

 では、“守り”のDXでは、どのようなビジネス上の脅威に対処しなければならないのでしょうか?

 第1の脅威は、競合企業と比較した相対的なビジネス効率の低下です。相対的に効率が落ちれば、コスト競争力を失い他社に後れを取ることになります。

 例えば見積り業務をとってみても、他社が1日でできるのに対し、自社では1週間かかっていれば、販売機会を失うことも少なくありません。その背景には、見積りのための情報をデジタル化できておらず、かつ情報が従業員ごとに分散し旧態依然とした紙による社内承認プロセスが存在しているといったことがないでしょうか?

 第2の脅威は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴うニューノーマルへの対応です。世界的なパンデミックが収束したとしても、働く場所や働き方に依存しない仕組み、コラボレーション(協働)の仕組み、それらを支えるビジネス情報とプロセスをデジタル化する仕組みは不可欠です。

 第3の脅威がサイバー攻撃です。サイバー攻撃の頻度は、2018年には39秒に1件だったのが、2019年の推定では14秒に1件、さらに2020年の予測では11秒に1件と年々増加しています。サイバー攻撃への対策費などを含めたITコストへの影響は1企業当たり約324万米ドル(約3億4000万円、1ドル105円換算。米IBM Research調べ、2019年7月)と言われています。

“攻め”のDXの要件

 一方、“攻め”のDXでは何を考えなければならないでしょうか。

 ビジネスにおける攻め方は、業界や業態、B2C(企業対個人)かB2B(企業間)かなど、それぞれの企業によって異なってくるでしょう。しかし、全社に共通するのは、「どうなりたいか?」という経営方針と、顧客行動(カスタマージャーニー)の徹底的な理解です。

 そのうえで顧客行動の深層を分析したり、新たな顧客価値を創造したりすることで、新たな収益構造を生み出せます。

“攻め”と“守り”のDXを隔てる障壁を排除せよ

 このように、withコロナ時代のDXの基本的なアプローチは、“守り”のDXによって業務オペレーションを超効率化しコストを抑えることで“攻め”のDXに向かう体質を作り、そこからさらに新たな収益構造を確立することです。

 “守り”と“攻め”のDXを推進するための基盤としては、以下の7つの要素を考慮する必要があります。

(1)標準化と接続性 :標準化・汎用化されていない技術を活用して作られた仕組みは、もはや、孤立した仕組みでしかありません。今後、社内外との連携が難しくなる、あるいはできなくなるでしょう。

(2)ビッグデータへの対応 :IoT(Internet of Things:モノのインターネット)や社外と連携した仕組みの中では、ビッグデータが蓄積されます。“宝の山”となるビッグデータを、いかに迅速に、かつ正確に分析できるかが、今後のビジネスにおいては重要です。データに基づいて意思決定を下していく「データドリブン経営」の根幹です。

(3)モジュール性 :インターオペラビリティ(相互運用性)の確保およびオープンソース技術を活用です。(1)と関連しますが、ビジネスを発展し続けるためには、社内外でつながることが重要で、そのための技術が必要になります。

(4)既存の製品やシステムの“断捨離” :(1)~(3)を確立するためには、既存のレガシーシステムや追加開発してきたシステムを今一度、再評価しなければなりません。

(5)サイバーセキュリティ戦略とプライバシープロトコル :サイバー攻撃は年々増加をしており、その被害も甚大になっています。DXの基盤にあってサイバー攻撃への対策が必須です。

(6)アジャイル開発と継続的デリバリー :これまでのウォーターフォール型開発では、ビジネス環境の変化に適応していくことが困難です。

(7)組織のアライメント(方向性の一致) :(1)~(6)を推進していくためには、組織のアライメント、つまり組織のパフォーマンスを最大化できるようにベクトルを合わせられるだけの文化の変革が重要です。実は、このアライメントが最難関になることが少なくありません。

 これら7つの要素を実現するに当たり、障壁になっているのが、上述した基幹システムの「S・O・S」状態です。すなわち個別最適化され、ブラックボックス化され、サイロ化されたシステムです。不十分なセキュリティガイドラインや、既存の仕組みに対して多数のバックログを抱えるIT部門も障壁になり得ます(図2)。

図2:withコロナ時代のDX基盤が求める7つの要素と、それを阻害する障壁

 withコロナ時代にあってDX基盤に求められる第1の条件は、これらの障壁を排除することです。

 次回は、DX基盤に求められる第2の条件として、業務の効率化に貢献できる基盤に必要な要素について説明します。

佐藤 幸樹(さとう・こうき)

インフォアジャパン ソリューションコンサルティング本部 プリンシパルソリューションアーキテクト。1985年生産系システム開発、インドネシアで事業会社の立ち上げを経て、1998年ERP(統合基幹業務システム)の世界に入る。以後は一貫して製造業の業務改善に向けた最適ソリューションの導入・提案を多数経験している。