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  • withコロナが求めるDX基盤のための3つの条件

業務効率に貢献する業界の“当たり前”に対応する【条件2】

佐藤 幸樹(インフォアジャパン プリンシパルソリューションアーキテクト)
2021年3月29日

前回、業務基幹システムが上げている「S・O・S」の悲鳴に触れました。withコロナ時代のデジタルトランスフォーメーション(DX)基盤の第1の条件は、その状況を打破し「“攻め”のDXと“守り”のDXを隔てている障壁を排除する」ことだと指摘しました。今回は、DX基盤に求められる第2の条件として、業務の効率化に貢献できる基盤に必要な要素について、主に製造業を例に説明します。

 「ERP(統合基幹業務システム)はExcelのお化けみたいなものだろう。さっさと導入してしまえ」−−。数年前、某機械メーカーの社長が、こう言われました。ERPを「ビジネスを支える必要不可欠な基盤」として提案・コンサルティングしてきた筆者にとっては、ショッキングな言葉でした。

“当たり前”のことは当たり前にこなす必要がある

 しかし改めて考えてみると、日々の業務を記録・計算・出力し、それを分析するという観点から捉えれば、確かに社長が言われる通りだと思いました。同時に、本当は次のようなことを言われたかったのではないかと考えました。

「日々の業務にあって“当たり前”のことは当たり前にやり、より自社の強み・差別化にフォーカスしてビジネスを伸ばすことに注力しろ」

 すなわち「もっとビジネスの目的・目標にフォーカスしろ」ということです。この話は本質的であり、今日のデジタルトランスフォーメーション(DX)時代においても他社との差別化を図るには、日々の“当たり前”の業務をどう当たり前にこなせるかが、ボディーブローのように効いてくるでしょう。

 前回、基幹業務システムが「S・O・S」の悲鳴を上げていると説明しました。

  S pecific:多くの個別最適化システムがあふれている
  O bsolete:それらが塩漬けやブラックボックス化して古くなっている
  S ilos:サイロ化して取り残されている

 このS・O・Sから脱却することは必要不可欠としたうえで、業務の効率化を促進できる業務基盤としては、以下のポイントに対応できるかどうかが重要になります。

ポイント1 :業界の“当たり前”に対応できるか?
ポイント2 :グループ一体経営を支えられるか?
ポイント3 :ビジネスの成長に追随でき、かつBCP(事業継続計画)に対応できるか?

ポイント1:業界の“当たり前”に対応できるか?

 業務基盤が備えるべき要件として、上述した“当たり前”のことへの対応が重要なポイントの1つです。なぜならば、この“当たり前”は業界・業態によって異なるからです。製造業をとってみても“当たり前”は次のように異なります。

・自動車部品製造業であれば、各自動車メーカーによって様々なEDI(電子データ交換)フォーマットによる様々な注文パターンに対応し、間違いなく納品できること
・完全受注生産の形態であれば、個々の案件をプロジェクトとしてとらえ、各作業のスケジュールや納期、コスト、要員を管理し、プロジェクトの最終収益の着地点を管理できること
・BTO(Build To Order)やCTO(Configure To Order)など個別仕様で受注生産する業態であれば、顧客の要件に応じたオプションを効率的に管理し、受注に結びつけられること
・食品などの業種であれば、在庫・出荷時に製品鮮度を管理できること

 つまり、「業界に精通していること」が業務基盤としての必要要件として重要なのです。これがなければアドオンやカスタマイズが増え、S・O・Sに逆戻りするか、非効率なオペレーションを強いられることになります。

 業務プロセスを仕訳し、業界の“当たり前”は当たり前に遂行することが、自社の差別化になる業務プロセスへの人的パワーと工数の集中を可能にし、ビジネスの目的・目標の達成へと導きます(図1)。

図1:業務プロセスを仕訳し、業界の“当たり前”を明確にする