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  • withコロナが求めるDX基盤のための3つの条件

ビジネスのレジリエンス(危機からの回復力)を強化せよ【条件3】

佐藤 幸樹(インフォアジャパン プリンシパルソリューションアーキテクト)
2021年5月31日

関係者が“つながる”プラットフォームが不可欠

 レジリエンスを高めるためには、サプライチェーンの各パーティーが“つながる”ことができるサプライチェーンプラットフォームの構築が第1歩になります。サプライチェーン上の情報の鮮度・精度を高め、日々のサプライチェーン上の変動を捉え、即座に対応できる環境を整えるのです。

 さらに言えば、これこそが、グローバル企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むに当たっての必須基盤なのです(図2)。

図2:グローバル企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に不可欠なサプライチェーンプラットフォームの位置付け

 このサプライチェーンプラットフォームでは、オーダーと位置情報がリンクした形で見える化できなければなりません(図2)。そこでは、例えば船舶などの位置情報が把握できるだけでなく、その船舶の、どのコンテナに、どのオーダーの、どの品目が積まれているかという情報までが必要です。

 それだけの情報を元に、特定の品目がどう届けられているのかをリアルタイムにチェックし、もし遅れが発生すれば、どのような影響がでるのかを把握するのです(図3)。

図3:サプライチェーンプラットフォームでは、物流情報とオーダー情報、在庫情報を包括的に可視化する

 例えば製造業の場合、多くのカイゼンは製造領域において実施されてきました。「乾いた雑巾をさらに絞る」と言われるほど、コスト低減や在庫削減などの努力が続けられ、そのことが日本の製造業の強さを牽引してきたことは事実でしょう。

 しかし現在、求められているのは、製造部門だけでなく、調達や製品物流との同期したサプライチェーンの視点でのカイゼンではないでしょうか?

 極端に言えば、製造部門のみのカイゼン効果は部門最適な効果でしかありません(図4)。企業全体で見れば、物流と同期していないために他の費目のパフォーマンスを悪化させている可能性もあるのです。部材を調達し製品を顧客に届ける物流と同期をとり、企業全体のパフォーマンスを高めることが肝要と考えます。

図4:製造部門だけのカイゼンは他部門のパフォーマンス低下を招くこともある

DX基盤を実現しDX戦略や人材・企業文化の変革に取り組む

 今回、withコロナ時代のDX基盤の条件として3つを挙げました。

【条件1】 “攻め”のDXと“守り”のDXを隔てている障壁を排除する
【条件2】 「当たり前のことを当たり前に」できる業務基盤
【条件3】 ビジネスのレジリエンス(危機からの回復力)の強化

 条件1と条件2においては基幹業務のための基盤として、業界の知見が実装され、クラウドやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、BigData、AI(人工知能)などのデジタル技術を駆使されていることの必要性を指摘しました。そして条件3では、取引先を含めた全体最適のための情報共有基盤の重要性を提案しました。

 経済産業省は、2018年9月の『DXレポート』に続き、2020年12月には『DXレポート2』を発表しました。そこでは、約2年を経たDXの推進状況を調査した結果、「約9割以上がDX未着手企業か、DX途上企業」と報告されています。

 DXレポート2は、デジタル企業を「企業内に事業変革の体制が整い、環境の変化に迅速に対応できる」と定義したうえで、デジタル企業に進むためのステップを記しています。DXの戦略やプラットフォーム、人材・企業文化の変革を謳っています。

 コロナ禍にあって、環境変化に、いかに素早く、かつ柔軟に対応できるかという能力が、企業の明暗を分けるということが明らかになりました。

 本稿で述べてきた3条件を満たしたDX基盤を実現したうえで、DX戦略や人材・企業文化の変革に取り組むことで、多くの企業がデジタル企業として将来に渡り強い企業になることを強く願います。

佐藤 幸樹(さとう・こうき)

インフォアジャパン ソリューションコンサルティング本部 プリンシパルソリューションアーキテクト。1985年生産系システム開発、インドネシアで事業会社の立ち上げを経て、1998年ERP(統合基幹業務システム)の世界に入る。以後は一貫して製造業の業務改善に向けた最適ソリューションの導入・提案を多数経験している。